ウディ・アレンと第三のファッションについての考察

ウディ・アレンと第三のファッションについての考察

ファッションには大きく分けて3つのジャンルがある。
モード。ストリート。そして、ママカジ。
聞きなれないであろう、ママカジ。あたりまえだ。さっき作った造語だからだ。
ママカジとは、その名の通りママの買ってきたであろうカジュアルのことだ。
今まで誰も論じてこなかったこのママカジについて、今回は書いていきたいと思う。

「アニーホール」

扱う作品はウディ・アレン出演/監督「アニーホール」(1977)

オシャレな映画として取り上げられることの多い「アニー・ホール」だが、そのほぼ9割の理由はダイアン・キートン演じるヒロイン、アニー・ホールのラルフローレンをはじめとする、マスキュリン且つジェンダーレスなファッションによるところが大きい。ただ、今回はそこが主眼ではない。

ウディ・アレン演じるコメディアンの主人公アルビー・シンガーのファッションについて書いてみたいと思う。ちなみに、著者はウディ・アレンに対してあまり思い入れはなく、彼が起こしている様々な女性トラブル(というのもおぞましい)を擁護する立場などではまったくない、ということを、改めてここに記載しておきたい。

内容

舞台はニューヨーク。主人公アルビーはユダヤジョークが得意なスタンダップコメディアン。ヒロインのアニーと出会い、様々な愛と擦れ違いを経験し、別れ、そして、再びニューヨークでしばしの邂逅を果たす。といった物語だ。ただ、時制が入れ替わったり、アニメが入ったり、第四の壁(客席に向かって話しかける)を飛び越えたり、当時としてはとても実験的な恋愛コメディであった。

好きなシーンは、鼻の粘膜が弱いアルビーがコカインを薦められるが、クシャミをしてコカインを吹き飛ばすところ。お薬ギャグ炸裂!

余談ではあるが、今作の影響下にある「(500)日のサマー」を先に観ない方が良かったと後悔している。だって「アニー・ホール」に新しさを感じられなかったから(泣)

ファッション

ここでいよいよ本題。アルビーのファッションは傾向が決まっている。

まずはチェックのシャツ。

アニーと出会うときは白シャツ、部屋にクモが出た時はシャンブレーシャツではあったが、劇中でも赤系、緑系のチェックのシャツをほぼほぼ着用している。

また、シャツの中に切るインナーが白ではなく、チョコレートっぽいTシャツなのも、なんともいえない野暮ったさで、しかしそこがいい。

そして、その上にはたいていワイドラペルのツイードのジャケット。ハンティング仕様由来である肘当てがあるのがカッコいい。また、オーバーサイズのM51フィールドジャケット。軍の払い下げでオーバーサイズなのであろうと想起させる、そのサイジングも今っぽくて、1977年の映画と思えぬ新鮮さがある。

パンツは、決まってウォッチポケット(懐中時計を入れる用)のついているタック入りのチノパン。こちらも絶妙な太さで、おじさん心をくすぐる。

最後に靴。劇中あまり靴は見えないが、コンバースのジャックパーセルとオックスフォード(短靴)のワークブーツであると推測できるカットがちらほら。

そして忘れてはいけない(忘れてた)、ウディ・アレンの代名詞と言えばメガネ。タートオプティカルのブライアンというウエリントンタイプのモデル。あのメガネがまたインテリでナードな雰囲気に拍車をかける。

今紹介したファッションだが、実はアルビーがこどもの頃から同じような恰好をしているのに注目してほしい。劇中で小学校時代の回想にウディ・アレン(大人)がアルビーとして出てくるが、回想シーンの彼らは、ほぼ同じファッションである。

ここから考えられるのはアルビーとは成長しない男であること。

そして、そのファッションは冒頭で紹介した「ママカジ」であること。

世の中にはファッションに興味がなく、ママが買ってくる洋服を着の身着のまま(木の実ナナ←※絶対に言いたくなるやつなんで気にしないでください)で着る層が、実は大勢いる。

寧ろ、そっちの方がマジョリティなのかもしれない。しかし、それでいいと思う。

ただ、そんなママカジのアルビーがとてもオシャレに見えてくるのが、この映画の不思議なところ。それは、ぼくがおじさんであることに多くの理由がある気もするが、とにかく、このトラッド感あふれる着こなしは、今観ても参考になることが多い。

結論。
「ママカジ」はオシャレかどうかの判断は難しい所だが、ブレない芯の強さを持っている。なぜならそれはママが買ってきたモノだから※結論になっていない(笑)

人生

以前、ふとこんなことに気が付いた。

「人生はおじさん(おばさん)である期間が一番長い。」

ぼくには、もう洋服を買ってくれる母ちゃんは死んじゃっていないけど、ママカジ的ファッションを敢えてしていくことで、この先もつづくおじさん人生をブレずに満喫していきたいと思う。

チェックのシャツ。

チョコレートカラーのTシャツ。

エルボーパッチのついたツイードジャケット。

ウォッチポケットつきのタック入りチノパン。

足元はジャックパーセルかオックスフォードのワークブーツ。

ウエリントンタイプのメガネも忘れずに。

ただ、ここまで揃えると、ただのウディ・アレンコスプレになるので、ママカジ以上に注意が必要となる。用法・容量を守ってお使いください。

その時は、絶対にクシャミをしないように。

“The movie is total art”
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People

辻村健二(株式会社ガイネン代表取締役/映像ディレクター)1979年年生まれ。愛知県在住。短編映画「片目の王様」が、国内外映画祭にて上映。おきなわ国際映画祭では準グランプリを受賞。15秒連続ドラマ「GAINEN THE LASTDANCE」を1年間にわたり配信中。また、俳優:星能豊氏と共にトークユニット「清順派」としてポッドキャスト配信も。本業の映像制作以外にも、デザイン、アート作品の制作・プロデュースなども行う。座右の銘は「どうでもよいことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従う。」

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