7年ぶり3回目の、そして初めての『8 1/2』

7年ぶり3回目の、そして初めての『8 1/2』

先日、フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』を劇場で観ました。
1963年の映画で、私が初めて観たのは高校生のときだったと記憶しています。
私の母が、学生のころから使っているリュックに”フェデリコ・フェッチリーニ”と名前をつけて使っていて、「フェデリコの名前は昔の映画監督の名前からつけたんだよ」と話してくれました。当時新聞のテレビ欄で映画を見つけたらなんとなく適当に選んでは録画をしていた私は、「フェデリコの人の映画だ!」という理由だけで、BSで放送していた『8 1/2』を録画しました。
正直なところ初めて観たときの記憶はあまりなくて、うとうとしながらリビングで観ていた気がします。

大学生になりレンタルしたDVDであらためて観ましたが、その後7年ほど観返す機会はありませんでした。そして先日、『午前10時の映画祭』で3回目の『8 1/2』を観に行きました。

映画館で観るのは初めてです。

とにかく映像も音響も素晴らしい!!!そして学生のころには難解だと思っていた内容も、実はとてもシンプルで、むしろ多くの言葉で語られるよりもスッとイメージとして頭に入ってくる印象でした。

大きなスクリーンで観る映画は、家のテレビで観るのとは全く別物です。

コテコテに装飾された数字が、シンプルに並んだタイトルロゴがスクリーンに映し出されると、「とても綺麗」「ついに始まる」という気持ちで思わずため息をついてしまいました。

本編、冒頭からふわふわ浮いているような感覚、人々の顔、だらんと垂れた腕、閉塞感と急激な開放感、落下・・・。まさに夢をみているような映像のあと、鏡越しにはっきりと映し出されるマルチェロ・マストロヤンニの顔がかっこいい!

冒頭ロゴから映画の終わりまでがっちりと心を掴まれてしまい、ご機嫌で映画館を出た後は喫茶店で一息。名古屋の街中で自分だけがまだ夢の中にいるような感覚で家に帰りました。

数年ぶりとはいえ観るのは3回目の映画でしたが、初めて映画館で観る映画はほぼ新作なのです。

観ていない映画はすべて新作

私の恩師である映画プロデューサーの仙頭武則さんが、大学生の私たちに何度も言っていた言葉があります。

「観ていない映画はすべて新作」

私はこれを聞いたとき、いままで意識したことのなかった考えにぴったりと言葉がはまったようなとても気持ちの良い感覚をおぼえました。

レンタルショップなどに行くと、旧作、新作と分かれて並べられています。しかし、それらはすべて、まだ観たことのない映画たちなのです。毎年たくさんの映画が公開されており、それまでの映画はどんどん旧作として埋もれていってしまいます。

劇場で観逃してしまった映画はもちろんですが、自分の生まれる前につくられた映画も新しく出会う新作映画です。毎週劇場公開される新作映画には数に限りがありますが、まだ観たことのない新作映画はこの世に無限にあります。

昔の映画、モノクロの映画、海外の映画、難しそう。

そんなふうに旧作を観ることに対してハードルを感じている方も多いと思いますが、当時の人が面白いと思ったものは、今の私たちが観てもきっと面白いはずです。

また、私は今回3回目の『8 1/2』でしたが、高校生、大学生、卒業して4年ほど経った現在では観たときの感じ方が全く違いました。

音楽は何度も聴きます。辛いときにはこの曲、楽しいときにはこの曲、気合を入れたいときにはこの曲。そんなふうに、お気に入りの曲を何度も何度も聴いている人は多いのではないでしょうか。

映画も同じで、そのときの自分の感情、それまでに経験したこと、まわりの状況などによって、同じ映画でも観え方が違ってくると思うのです。

それには新作映画を観たときと同じくらいの新鮮さがあります。

シネコンでも旧作映画を

この数年、新型コロナウイルスの影響で劇場公開される新作映画の数がグッと少なくなりました。そのためか旧作のリバイバル上映の占める割合が多くなっていたように感じます。もちろん面白い新作が毎週たくさん公開されたら良いのですが、もうスクリーンで観ることができないと思っていた映画を観ることができるのもとても嬉しいことです。

旧作を観に映画館に行くと、公開当時にも観ていたのかなというシニアの方、私と同じくらいかもっと若い学生のお客さんも数名来ていました。

普段からリバイバル上映を中心にしているミニシアターもありますが、ちょっと入りづらいなと感じて余計にハードルがあがってしまうこともあると思います。大きなシネコンでも常に旧作の上映枠がもうけられていたら、もっと広い世代の人がいろいろな時代の映画を観ることができるのではないでしょうか。

この1年ほどは新作映画の数もかなり増えて、コロナ前に戻ってきたように感じますが、引き続き大作映画以外にもたくさんの映画が劇場で上映されていくと良いなと思いました。

ぜひ、少しでも興味のある映画があれば新作、旧作関係なく映画館へ観て観に行ってほしいです。

突然ですが、ここで少し宣伝をさせてください。

私の恩師である国際的映画プロデューサー仙頭武則さんに師事した20代の若者の監督作品を集めた特集上映を、名古屋の大須シネマにて開催いたします。

特別招待作品として瀬浪歌央監督『雨の方舟』、梅村和史監督『静謐と夕暮』仙頭武則監督『NOTHING PARTS 71 REIWA』を上映します。

様々な状況が大きく変わっていったこの数年間で、学生たちがどのような映画を撮ったのか。映画にどのように反映されているのか。テーマごとにブロック分けを行い、2~3本立てで上映します。

私たち若い世代が何を見て、何を感じているのか。ぜひ多くの方に観ていただきたいです。旧作、新作関係なく、大作映画もインディペンデント映画も、作品一つ一つに注目して選択肢のひとつにしていただけたら嬉しいです。

きっと、今まで見えていた景色がほんの少し違って見えてくると思います。

第1回MONJIN映画祭
監督作『repeat in the room』ミニトークの様子
長谷川汐海、星能豊、仙頭武則

<仙頭武則MONJIN映画祭>
Twitter:@monjineigasai
Instagram:@monjineigasai


“The movie is total art”
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People

長谷川汐海 (はせがわしおみ)1996年愛知県出身。名古屋学芸大学映像メディア学科卒。同科では映画プロデューサーの仙頭武則氏に師事。監督作『repeat in the room』は雑誌、映画秘宝の斎藤工さん連載コラムで紹介される。大学卒業後は名古屋の映画館で働きながら制作を行っている。

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