戦争と平和と役に立たない映画たち

戦争と平和と役に立たない映画たち

戦前の私たちへ

「もはや戦後ではない、戦前だ」

とは2020年に亡くなられた大林宣彦監督の言葉です。

私たちは遠い昔に起きた戦争の後の時代、戦後を生きているつもりでしたが、幼少期に戦争を経験した大林監督は、またこの国が戦争へ向かっている気配を感じていたのです。

監督は今を戦前にしないために、ポップでキュートな映画のなかに戦争を描き続けていました。

遺作となった『海辺の映画館-キネマの玉手箱』では、写実的に残酷な戦争を描くのではなく、そこで生まれた人々の哀しみ(という言葉では表現しきれませんが)を真摯に描き、現代のわたしたちへ平和を願うメッセージを伝えています。

そんな中で、ロシアのウクライナ侵攻に関するニュースを見ると、世界は戦前どころか戦中であることにショックを受けます。

2020年4月に公開予定だった『海辺の映画館-キネマの玉手箱』は、当時私が勤務していた映画館でも上映が決まっていたのですが、新型コロナウイルスの影響で公開延期に。ついに観ることができたのは夏ごろでした。

私は公開日よりひと足早く、映写業務のため映画を観ました。深夜にひとりきり、大きなスクリーンで。

3時間の映画があっという間に終わってしまい、圧倒されボロボロと泣きながら、大林宣彦監督の著書を読み、始発の時間を待ちました。

世界中の人がみんな大林映画を観ればいいのに、そうしたら戦争なんてきっと誰もしないのに。『海辺の映画館』には、映画は世界を変えられる、と本気で思わせてくれるエネルギーがありました。

戦争(戦闘機大活躍)映画

いま、これを書いているのは2023年の12月。世の中はクリスマスとお正月へ向かっています。

今年も相変わらず世界から戦争はなくなりませんでした。そしてわたしたちが住むこの日本も、また一歩『戦前』へ近づいたような気がします。

私はいわゆる戦争映画と言われる映画を好んでは観ません。

なぜなら、誠実に戦争を描いた映画は、静かに戦争へと向かうわたしたちにはあまりにも辛く恐ろしいから。

そしてこれは私の勝手な思い込みなのですが、シネコンで上映されるような商業戦争映画の多くに、”戦闘機好きの為の映画”という印象を抱いているからです。

“戦争映画”ではなく”戦闘機大活躍映画”では?

戦争は辛く恐ろしい。しかし戦闘機はかっこいいし命をかけて家族や国を守る姿は美しい。そんなはずは絶対にないのです。

仮面ライダーやウルトラマンが戦うのと同じように戦闘機が戦うのはかっこいいかもしれない。けれどもそれは人間を殺し町を破壊するために作られた道具です。わたしたちはどんな理由であれその存在を肯定してはいけません。

怪獣と浪漫とデンデケデケデケ

先日、映画館で某怪獣映画を観ました。

映画では戦争を経験した若者たちが戦闘機を使って怪獣と戦っていました。

たくさんの戦闘機と、それらを使った作戦、家族や国を守るために作戦に参加する男たち。悲惨な戦争のトラウマと戦う主人公を描きながら、どうしてそこで使われた戦闘機を格好良いモチーフのように登場させられるのでしょうか。

正直なところ私にはとても軽薄な映画に見えてしまい、こんなことなら戦争を描かないで欲しいとさえ思ってしまいました。

しかし映画館は満席。

映画業界全体が落ち込んでいる今、こんなにも人が集まるのかと驚き、『軽薄な映画にたくさんの軽薄な人たちが集まっている』などと大変失礼な台詞を吐きながら映画館を後にしました。

その後、鈴木清順監督の生誕100周年記念として『浪漫三部作』4K上映がありました。私は鈴木清順監督の映画がとても好きなので3本とも映画館へ観に行ったのですが、またまた満席近い動員に驚きました。

そしてその数週間後、今度は大林宣彦監督の特集上映がありました。しかも、今では貴重な35ミリフィルム上映!

しかし、平日の朝ということもあり、お客さんは数人でした。
(後日舞台挨拶つきの上映回はほぼ満席だったようです)

鈴木清順監督 浪漫三部作 4K『ツィゴイネルワイゼン』(1980年)

映画、役に立つとか立たないとか

映画館に足を運ぶ人の数はどんどん減っています。全国の映画館の数も減っています。

そんな中で、私が軽薄だと思った怪獣映画には、たくさんの人々を楽しませ、映画館に向かわせる魅力があったのです。

それが商業的に成功した映画だと言えるのでしょう。映画館は営利目的の運営のはずなので、商業的に意味のある映画はぜひ上映すべきです。

また、冒頭でもお伝えしたように、大林宣彦監督の映画は、今生きている私たち皆へのメッセージが込められています。そのような映画も上映する意味が十分にあります。

しかし、私がいそいそと映画館へ向かった鈴木清順監督の映画はどうでしょうか。

とても面白い最高の映画だと思いますが、この映画を好きだと思う人は、もし今回の上映がなかったとしても、必ずどこかでこの映画と出会うことができると思うのです。逆に、より多くの人に観てもらいたいと思っても、届かない人には絶対に届くことのない種類の映画だと思います。

私はこの映画を観られて嬉しいけれど、本当はもっと上映して欲しい映画があるなあと不思議な気持ちになりました。

まず、今まさに多くの人々に届けなければいけない映画をもっとたくさん上映してほしい。そして、映画館という施設を維持していくために必要な映画を上映してほしい。

最後に、私たち映画ファンが大好きな最高の映画たちも上映してほしい。

私がいま映画館へ求める正直な気持ちです。

タワーレコードNO MUSIC, NO LIFE.坂本慎太郎

「音楽は役に立たない。役に立たないから素晴らしい。役に立たないものが存在できない世界は恐ろしい。」

ミュージシャンの坂本慎太郎氏の言葉です。

本当は映画も同じだと思いたいです。大林宣彦監督の平和を願うメッセージなんて必要のない世界になりますように。どんな映画も優劣なく、全て観られる意味があると心から思えますように。

そして、役に立たない愛すべき映画たちの存在を、今ある当たり前の平和とともに守っていきたいと思う今日この頃でした。

“The movie is total art”
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People

長谷川汐海 (はせがわしおみ)1996年愛知県出身。名古屋学芸大学映像メディア学科卒。同科では映画プロデューサーの仙頭武則氏に師事。監督作『repeat in the room』は雑誌、映画秘宝の斎藤工さん連載コラムで紹介される。大学卒業後は名古屋の映画館で働きながら制作を行っている。

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