思わずヒザをヒットする!名作日本語タイトル、「ホーダイ」の世界。

思わずヒザをヒットする!名作日本語タイトル、「ホーダイ」の世界。

「邦題」について語らせてもらいたい。言っておくけど、あのタイトルはダサすぎたとか、原題の雰囲気をブチ壊したので許せない!とか、そういう英語クラスタ的な批評をするつもりは毛頭ない。どちらかというと、好きなんです、ホーダイ。

昨今、ポリティカルコレクトネス(政治的に正しい姿勢)や人物の表象だったり、人権を冒涜するような悪意のある邦題が世間を騒がせて、ときに炎上することもある。宣伝する側からすれば、こうしたケースはむしろ美味しいことなのかもしれないが、ここで洋画の日本向けPRのリテラシーの低さや差別を助長するような事件の議論をするつもりはない。今回は日本人として、「忘れることのできない邦題」の話をしてみたい。

筆者にとって邦題とは。昔なけなしの小遣いを手に映画館へ行くとき、決して失敗はしたくないと思っていた。邦題は名画に出会うチャンスを確実にモノにするための大切な一次情報だったのである。

邦題の名作たち

まずはやはり。
「燃えよドラゴン」だ。もうぶっちぎりでカッコいい。原題は「Enter the Dragon」だが、日本語タイトルの方が圧倒的にカッコいい。英訳すると、「Burn on, the Dragon」だぜ。もう全世界このタイトルで統一でよくないですか?と思っていたところ、まさか!と思い調べてみたら、このタイトルの名付け親は、本屋で司馬遼太郎先生の「燃えよ剣」をみかけて、そこからひらめいて拝借したとか。ウソか本当かはわからないが、司馬先生とブルース・リーの出世作がこんな形でつながっていると想像するとさらに熱い。ブルース・リー作品のサウンドトラックの「怪鳥音付き」というサービスにもしびれたね。

写真:Marius GIRE on Unsplash

次に「時計じかけのオレンジ」(原題:Clock work orange)、原題に忠実なタイトルでいてミステリアス。サブカル感も漂っていてもうパーフェクトな音感だ。実際、作中に時計じかけのオレンジが出てきたのか、記憶が定かではないのだが、ぶっ飛んだ内容であることは確かだ。若い者だけが耐えられるカオスなシーンの連続。もう筆者くらいの年齢(1971年生まれ)になると観る前にある程度の体力と良好なメンタルで望まなければならない。それほどのエネルギーを持った作品。サントラもベートーベンの第九をシンセアレンジにしていて、めちゃくちゃかっこよかった。

「地獄の黙示録」はどうだ。なんという重厚感。映画の内容ともあいまって、このタイトルのおかげで観る前からすでに強烈なボディブローを喰らっている。原題の「Apocalypse Now」も、日本人には到底受け入れられない異世界感。しかし、邦題は原題からApocalypse(黙示録)という単語をあえてそのまま訳入れ、さらにそこに釘を打ち込むようなタイトルに仕立てあげた。洋画ファンにとっては未だに語り草になる怪作だ。

ところで元々海外ドラマの「スパイ大作戦」(原題:Mission Impossible)は、トム・クルーズ主演で映画化された時に、原題のまま「ミッション・インポッシブル」に変更された。もし「スパイ大作戦」のままだったら、往年の海外ドラマファンにはうけたような気がする。しかし時代を経て、視聴者のセンスも進化した。「大作戦」は安いコミックのような響きとなり、原題のクールなスパイ、いや、エスピオナージの活躍とともに「ミッション」、「インポッシブル」と少し聞き慣れない英単語をそのまま邦題にして大ヒットした。今ではこのタイトルがすっかり日本人にも受け入れられている。

そして、賛否は分かれると思うが、「プリティ・リーグ」も名作として挙げておきたい。原題は、「A League of Their Own」で、直訳すると「彼女たちのリーグ」。大戦中、アメリカに実在した女子プロ野球チームの映画だ。主演はトム・ハンクスで、あのマドンナも出演したことで話題になった。このタイトルは映画ファンには、「ダサい」の代名詞になっている。しかし、そこが良いではないのか、とあえて弁護させてもらう。「プリティ」という発想はどこからきたのかを想像してみよう。女子野球?マドンナ?否、この作品の数年前に日本でも大ヒットした「プリティ・ウーマン」(原題: Pretty Woman)に被せたかったのではなかろうか。そんな意図がひしひしと伝わってくるのである。ネットで秀悦な邦題を調べてみると「天使にラブソングを」(原題: Sister Act )は非常に評判が良いらしい。なぜ「天使に○○○○」は良くて「プリティ・リーグ」は悪評なのかは納得がいかない。少しダサめなセンスが好きな、僕らのような一般洋画ファンを嘲り笑う態度はいただけない。

現に筆者の主張を後押しするべく、新しくドラマ化された同シリーズも邦題は「プリティ・リーグ」のままではないか。欲を言えば、「カワイイ・リーグ」でも良かったんじゃないのか。

最近は誰かれかまわず、「カワイイ」を語るじゃないか、カワイイは正義なのだ。

他にも「未知との遭遇」、「明日に向って撃て!」、「愛と青春の旅だち」、「ゾンビ」、「バタリアン」「マルコビッチの穴」、「クレイジーモンキー笑拳」、「新Mr.Boo!アヒルの警備保障」、「ムトゥ 踊るマハラジャ」などなど、挙げ出したらきりがない。邦題の世界とは、まるで現代の古今和歌集のような、アメイジング・ジャパニーズ・ファンタジー!な世界なのだ。

しかし残念なケースが多いのも事実だ。特に最近「わかりやすさ」や国内上映作品の中で「差別化」を目指した結果、つまらない、原題のイメージまでも損ねるようなタイトルが出来上がり、目の肥えた観客層の間で「ドーシテソーナッタ?」としばしば話題に上がる。どーしてなのか。

筆者の仮説はずばり、昨今の邦画タイトルのレベルが高すぎるのだ。「君の名は」とか、「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」とか、「君の膵臓をたべたい」とかとか。そして「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」をはじめとするシン・○○○○シリーズ・・・!日本人はこんなにもおもろいタイトルにすっかり慣れてしまっているのだから、洋画のタイトルはもっと、がんばらないと!

例えば、もしあの名作がリバイバルされ日本で公開される場合、こんなタイトルに思い切って変えるのは、どうだろう?

写真:Daniel Maquiling on Unsplash

某アニメスタジオ風に、
「スターウォーズ」→「ルークと闇のフォース使い」

アニメ風に
「ベスト・キッド」→「カラテ上手のミヤギさん」

ラノベ風に
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」→「デロリアンに乗ってたら、高校生のママと恋におちちゃった」略して、デロ恋。
そして現在、世界中で日本市場だけが苦戦を強いられている超大作「アバター」※はいっそ「シン・アバター」にすれば、もっと売れるのかもしれないぞ。

(※参照:https://www.boxofficemojo.com 2023年1月14日現在 https://www.boxofficemojo.com/weekend/2023W02/?area=JP&ref_=bo_wey_table_3  )

本文、画像作成:DEBO


“The movie is total art”
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People

DEBO(デボ)。秋葉原生まれ。昭和のアニメやメロドラマ、歌謡曲を浴びて育った少年時代、毎年正月になるとお年玉を握りしめ上野の映画館街でカンフーから始まりアイドル、ハリウッド映画まであらゆるジャンルの映画をハシゴする中学時代を過ごす。その後は音楽にも手を出し高校卒業後に一念発起して渡米。本場のハリウッドで見事に挫折してうなだれていたところ、監督デビューを目指す友(消息不明)とMacintoshとの出会いから、映画やデザイン、アートの見方を教わる。グラフィックデザインを生業としつつ、映像業界をこっそり底辺観測している。NPO法人ANiC理事。

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