東京オリンピック開会式に見た世界。日本も、あなたも、私も、世界の一部であるということ

lifestyle

東京オリンピック開会式に見た世界。日本も、あなたも、私も、世界の一部であるということ

7月23日20時から、東京オリンピック2020大会の開会式が国立競技場で開催された。

イギリスのBBCニュースは「世界が最大の試練に立ち向かうなかで開かれる大会だと思い知らされた」と報道、アメリカのNPRは「控えめな開会式で東京五輪が正式にスタートした」と表現した。

2020年2月17日に開かれた記者会見で東京2020組織委員会が発表した、東京2020大会が世界へ発信するモットーは「United by Emotion」である。参考和訳は「感動で、私たちは一つになる。」とされている。

7月23日の開会式以降17日間の大会期間を経て、東京2020大会は8月8日に閉会を迎えた。コロナウイルスという脅威の中で日々を過ごす世界の人々へ向けて、アスリート達が繰り広げる数多の挑戦を通じて、喜びや悔しさを共に感じてほしい、言葉や文化が違っても、世界中の人々を感動で繋ぐ力がスポーツにはあると信じて掲げられたモットーに相応しい東京2020大会となった。

演出を担うクリエーターが直前に辞任、解任となり、パンデミックの影響で史上初の延期、そして無観客の中行われた前代未聞の開会式であったが、果たして大会モットーである「United by Emotion」達成の第一歩となったのだろうか。開会式の様子を振り返っていく。

リオから東京へ、東京から世界へ

今回の東京オリンピック開会式においても最も注目されたのはやはり選手団の入場行進ではないだろうか。

日本が世界に誇る文化のひとつにゲームがある。ゲームと聞いてリオデジャネイロ五輪閉会式に「スーパーマリオブラザーズ」のマリオに扮して登場した安倍晋三前首相の姿を思い出した人も多くいるのではないだろうか。4年後の開催を誰よりも楽しみにしながら、新型コロナの感染拡大を踏まえ、東京2020大会延期の提案をせざるを得なかった安倍マリオの意志を引き継ぐかのように、日本のゲームのテーマ曲が選手団の入場行進曲に採用された。

ドラゴンクエストの「序曲:ロトのテーマ」を始め、ファイナルファンタジーの「勝利のファンファーレ」「MAIN THEME」、キングダムハーツの「Olympus Coliseum」「Hero’s Fanfare」、モンスターハンターの「英雄の証」「旅立ちの風」、NieRの「イニシエノウタ」、クロノ・トリガーの「カエルのテーマ」「ロボのテーマ」など国民的人気を博し、多くの海外ファンもを持つゲームのテーマ曲の数々をオーケストラが演奏する中、選手(勇者)たちは入場した。選手をゲームの勇者に見立てるようなこのサプライズ演出は多くのファンを沸かし、SNSでは作者らが驚きと喜びのコメントをリアルタイムで投稿した。

各国の選手が自国を象徴する衣装で登場したが、中でもカザフスタン選手団の旗手を務めた陸上・三段跳びのオルガ・ルイパコワ選手の姿に注目が集まっていた。カザフスタンを象徴する伝統的な装飾が施されたエキゾチックな白いドレスを纏ったルイパコワ選手の入場時に「ファイナルファンタジー」の楽曲が流れたことから、SNS上ではルイパコワ選手を同作の登場人物に喩え「ルナフレーナ様に見えた」「ローザかと思った」などの声も上がった。

各国の選手の引率者が高々と掲揚するプラカードは漫画の吹き出しをモチーフとしており、引率者の衣装もそれに合わせたデザインとなっていた。

そして入場行進では初めて五十音(あいうえお)順が採用された。従来、選手団の入場行進では、オリンピック発祥の地であるギリシャの選手団を筆頭として、アルファベット順で各国の選手が入場していた。しかし現在の五輪憲章には行進順について明確な規定がなく、今回の開会式では五十音を採用。ギリシャをトップバッターとして続く2番目は難民選手団、その後は五十音順で進み、最後の3カ国は2028年ロサンゼルス五輪の開催が決まっている米国、2024年パリ五輪のフランス、そして最後となる206番目に日本選手団が登場した。

光のプリズムが放つ多様性と調和

国歌「君が代」は歌姫MISIAが独唱した。360度、多面的に輝くレインボーカラーの“光のプリズム”ドレスはオープンリーゲイのデザイナー小泉智貴のTOMO KOIZUMI(トモ コイズミ)。性的マイノリティーであることを公表して参加する選手が過去最多の160人を超えた本大会におけるこのドレスは、世界中のLGBTQ+コミュニティを尊び、世界の一人一人のプライドや平等のため「あらゆる差別と闘う」と記されたオリンピック憲章の象徴のようであった。具現した「多様性と調和」と言えよう。

また、選手団の旗手が男女であったことも、オリンピック憲章にある男女平等の原則の実施のためである。日本オリンピック委員会(JOC)の理事に就任した女子フェンシングの元日本代表、杉山文野元選手も多様性に満ちた東京2020大会を高く評価している。日本におけるLGBTQ+への理解を広めるきっかけとなったはずである。

時間をも繋ぐオリンピックリングス

俳優の真矢ミキやタップダンサーの熊谷和徳、アーティストグループの東京ゲゲゲイが半纏姿で登場したオープニングアクトでは、江戸時代から大工らが伝えてきたという労働歌「木遣(きや)り唄」が披露された。

木工作業の音の中央へ木製のリングが運び込まれ、寄せ木細工をイメージして作られたオリンピックリングス(五輪マーク)が組み上げられた。公式資料によると、オリンピックリングスに使用された木材は、北海道遠軽町に位置する児童自立支援施設の敷地内から調達したそうだ。この木々は1964年の前回東京五輪で各国選手団が持ち寄った種から育ったもの。また、国立競技場は47都道府県から集めた間伐材がふんだんに用いられている。

一世木鐸(いっせいぼくたく)の如く国立競技場のフィールド中央に出現し、世界各国の約160本の木から作られたこのオリンピックリングスはやさしく灯る提灯に囲まれ、世界と日本、そして1964年と2021年を繋ぐ輪となった。

全編4時間超、全てが見どころ

開会式中盤には、ジョン・レノンとオノ・ヨーコによる楽曲「Imagine」(1971) を五大州のアーティストが繋ぐ演出も見られた。アジア州代表として会場で歌声を披露した杉並児童合唱団をはじめ、アフリカ代表のアンジェリーク・キジョー、ヨーロッパのアレハンドロ・サンス、アメリカ州のジョン・レジェンド、オセアニアのキース・アーバンが歌声を披露した。 

さらに、罪のない善男善女が悪人に捕らえられ、まさに皆殺しにされる絶体絶命の時に「しばらく」と大声をかけて現れた主人公、鎌倉権五郎が超人的な力で人々を救う物語「暫」を歌舞伎俳優の市川海老蔵が披露。大迫力のパフォーマンスによって、苦境に立たされた世界の人々は九死に一生を得ることとなる。世界を股にかけるジャズピアニストの上原ひろみのエネルギッシュなコラボレーションも見どころのひとつとなった。世界中の視聴者がSNSにて「伝統と革新を融合させ、時代を超越する日本の魅力を反映していた」「日本は唯一無二だ」などのコメントをポストした。

五輪旗掲揚の際には、スコットランドのシンガー、スーザン・ボイルが歌う「Wings to Fly(翼をください)」に応えるように、紙の鳩が平和を願って空を舞った。

「ピクトグラム50個パフォーマンス」は世界中どこの茶の間にも笑顔を齎しただろう。日本を訪れる世界の人々が言語を必要とせずとも理解できるようにと、各競技を記号的に表す「ピクトグラム」は、1964年の東京五輪開催時に生み出され世界共通語となった。東京2020大会で行われる全50種類の競技のピクトグラムをパントマイムアーティスト・が~まるちょばが披露した。

そして様々な演出で紡がれた開会式はクライマックスの第9章へオーバーラップする。

太陽の下に集い燃え上がる魂たち

昨年3月にギリシャで採火された聖火は1年の時を経て、今年3月に福島のスポーツトレーニング施設、Jヴィレッジから聖火リレーがスタートした。

富士山を模したモニュメントの上に浮かぶ、大きな太陽をモチーフにした球体デザインの聖火台に最終点火したのは、女子テニスの大坂なおみ選手。N.HOOLYWOODの尾花大輔によってデザインされたユニフォーム姿の大坂なおみ選手が登った階段は、開花した花をイメージしてデザインされている。この聖火台のデザインは、欧州などで高い評価を受けている佐藤オオキ率いるデザインオフィスnendoが手掛けた。「太陽の下に皆が集い、皆が平等の存在であり、皆がエネルギーを得る」といったコンセプトに基づいてデザインされたそうだ。

燃える太陽の炎の燃料には次世代エネルギーとして注目されつつある水素エネルギーを使用。これは、復興が進む福島県の施設で製造されたものを使用したそうだ。

United by Emotion

伝統文化をはじめ、今やメインカルチャーへと遷移しているポップカルチャーを担うクリエイティビティで世界中の聴衆を驚かせ、歓喜に導いた日本。ギリシア語で「遠く離れた」を意味するテレ(τηλε)を語源とするテレビと、双方向のコミュニケーションを可能にしたプラットフォーム、SNSを代表とするソーシャルメディアの普及により、海の上に敷かれた国境を越えて東京オリンピック2020大会開会式の様子は世界へと届けられた。

自分とは生涯縁もゆかりもないと思っていたオリンピックの開会式で大好きなキングダムハーツの「Olympus Coliseum」が流れる。大きなマスクをした私より年下の選手がカメラに向かって、世界に向かって手を振る。聞けば幼少期へマインド・トラベルしてしまう馴染み深いあの曲は、世界を舞台にしているアーティストに歌われていて、一生に一度あるかないかの恐ろしい体験をしたはずの人々は、長閑で幸せに暮らしてきた私よりも生きることを全うしている。

日本についても世界についても、自分についても知っていたことを再確認し、忘れていたことを思い出す。そして同じ日の同じ時間に、遥か遠くの誰かが、誰もが自分の目の前で流れている映像と同じものを見て微笑んでいることを想像すると、このちっぽけな島国に住むちっぽけな自分も世界の一員だと感じる。「United by Emotion」、何度も何度もカタルシスを感じる、そういう開会式だった。

東京オリンピック開会式に見た世界。そこに何度も映る日本や、あなたや、自分の姿。日本も、あなたも、私も、世界の一部であるということ。感動で、私たちは一つになることができたのではないだろうか。

HOT KEYWORD

WRITER

kozukario

kozukario

SHARE

RELATED

RECOMMEND