アーティスト高野萌美&高屋永遠がWHYNOT. TOKYOにて語る現代アートのこれから
- INTERVIEW
ーー先日開催された個展「Possibilities in a Filthy Flow(汚い川にも)」の「汚い川」とは何を意味しているんですか?
高野萌美さん(以下、高野さん) 地元神奈川県の鶴見川です。イギリスのゴールドスミス・カレッジ※1への芸術留学が決まって、その渡航までの数ヶ月間、よく川沿いを自転車で走っていて。
言葉にしにくい感覚なんですけど……太陽や風が気持ちよくてポジティブな空気感の中で「ああ海外に行くんだって」思いが、河川敷の開けた空間と重なっていく感じ。そんな日常と地続きの崇高な気持ちが「自分にとってのリアリティ」なんだと思っています。「Possibilities in a Filthy Flow」ではそれを元に作品を制作・発表したいと考えました。
ーー展示の仕方で工夫された点はありますか?
作品自体はすごく手のかかるクラフト的な刺繍や織り密度の高い手仕事をしているんですけど、日常とのリンクを表すために作品の一部は洗濯バサミで吊るして展示しました。
洗濯物を干している感じとか、カーテンが風に揺れている感じとか、汚れた布巾が流しにかかってる感じとか。自分にとってのリアリティへの興味を伝えられるようにしましたね。
ーー「まっすぐさの絞首台」など高野さんの作品タイトルも非常に特徴的です。タイトルに関して何かこだわりはありますか?
言葉だけがぱっと出てきてそれをメモしておいて後で考察しています。感じたことをどうすれば一言で表せるか考えて、名前をつけることもありますね。
ーー最近は「織り」の技術を作品制作に取り入れているんですね。
高野さん:私自身そんなに織りのエキスパートとかではないです。でも「ちゃんと全ての作法を習得した人だけやれればいい」みたいなのが嫌だったので見切り発車的に始めました。
私自身、厳密に作り上げることができないからここに来たというか。逃げ方を極めるタイプというか。自分で言って嫌になってきた……私の作品では偶然できたシミとか1個飛ばした織りとかの偶然性を生かして……なんかめっちゃよく聞くやつですね(笑)。もっといい言い方があればいいんですけど。
でもそれは突き詰めたい部分でもあるんです。ちゃんと何かを極めた人にはできないことを極めたい。最初から適当にやってきた人(私)にしか出せない厚み、みたいなものを表現できないと負けだと思います。
ーーイギリスでの留学経験があるとのことですが、海外でアートを学んで得られた収穫はありますか?
高野さん:1番大きな学びは、リサーチの仕方がわかったことです。アートをやっていく中で、自分はただ自由に造るんじゃなくて、やりたいと思ったことが社会的、美術史的にどんな位置づけにあるのかってことを踏まえた上で制作したいという気持ちがあります。
そんな時にどんな文献やギャラリーを当たればいいのか、自発的に大学生活を送る中で身についていきましたね。
ーー今後高野さんはアーティストとしてどうなっていきたいですか?
高野さん:もっと生の素材を扱ってより彫刻的な要素のある作品を造りたいと思っています。前回個展「Possibilities in a Filthy Flow」では蜜蝋を使い始めました。
あとは染織の技法をもっと勉強したいですね。WHYNOT. TOKYOとも関わっていきつつ、さまざまな場所で展示にも挑戦したいです!
ここからは、WHYNOT. TOKYOの主宰者で、自らもアーティストとして活躍する高屋永遠さんにも加わっていただきます。
ーー「WHYNOT. TOKYO」という名前はどこから名付けたんですか? また立ち上げの経緯をお聞かせください。
高屋永遠さん(以下、高屋さん)約5年前にはすでに構想がありました。私が大学を卒業して帰国した頃ですね。自分も作家として生計を立てていきたいし、アーティスト同士がつながれる相互補助システム的な場を造りたいというのはありました。
最初はオンラインのプラットホームでいいかな? とも思っていたんですけど、最終的に現在の商店街の中のアートスペースという形に落ち着きました。
ーーお2人の出会いは? また、高野さんはどのようにWHYNOT. TOKYOの運営に関わっているのですか?
高屋さん:ゴールドスミス・カレッジのファインアートコースです。アートに対して人生かけてやっていこうって価値観が共通していました。
高野さん:私は立ち上げからではなく、高屋さんに声をかけてもらって、前回のように展示させてもらったり、他のアーティスト展示の際サポートに回ったりいます。
高屋さん:でも、主宰といいましてもって私1人が決めることじゃないなと考えることもあります。アーティストが作品制作や芸術生産に関連する取り組みを通して、どう社会と関わりながら自活していくかは、各作家ごとに多様な方法があるなって。だからどういうやり方でやっていくかは、各自で実験しながら、みんなで議論したり、助け合いをして行こうというか。
ーーコロナ禍において、多くの美術館・ギャラリーが影響を受けています。
高屋さん:WHYNOT. TOKYOは2019年11月に正式にオープンして、ほぼコロナ禍の中での営業になっています。だから、コロナ以前との比較が難しいのですが、2020年の年始頃からいらっしゃる方がとても少なくなった時期がありました。そう言った意味では、大きく影響を受けましたし、オンライン化を進めることになりました。昨今、トークショーやワークショップの開催が難しいので、どうしても展示が主な形式になりがちです。それでも、YouTubeなどでトークの配信や展示に関連する映像の公開を行なっています。
高野さん:いくら綺麗に写真撮っても、テクスチャーや空間など、直接観てもらわないと本当に伝えるのが難しいものもありますし。オンラインで伝わる情報だけで作品が判断されてしまうことは怖いし、寂しいですね、
高屋さん:公開に関しては慎重に検討するべき場合もありますね。現状、ある程度オンラインで作品を同様のフォーマットで公開せざるをえない状況に陥りつつあります。不本意な拡散のリスクとか、そもそもそういった形で公開されることを前提に作品制作を行うか否かなど。運営者も作家もそれにどう折り合いをつけていくかは、それぞれに課題意識を持っている方も少なくないのではないでしょうか。
ーー制作と時代はどうしても切り離せない部分もありますよね
高野さん:結局どんな時代でも、本当に作品が強ければ大丈夫だとも思うんです。ちゃんと造るしかない。どう観せるかっていうのはそれからですね。
ーーWHYNOT. TOKYOは今後アートに対し、どのようにアプローチをしていきたいですか?
高屋さん:現在WHYNOT. TOKYOはホワイトキューブ※2という形を取っています。本当に初めてアートに触れる方には緊張する空間造りになってるのかなとも感じています。
なんらかの形で、作家の関心を作品鑑賞という形態以外でも機会を作りたいです。
ーー日本ではアートはまだまだ敷居の高いものと考えられている、と感じる場面はあります。
高野さん:ただ、アートって好き勝手造ればいいものじゃなない、っていうのは2人でよく話していて。誰にでも楽しい、わかりやすいアートを造りたいわけではないんです。だから、私たちも常に向上心を持って密度の高いものを制作しつつ、オーディエンスと相互に学び合える関係性を築きたいですね。
高屋さん:そうやって美術界が盛り上がれば作家・オーディエンス双方に良い結果を生むと思います。
WHYNOT.の活動を通して、美術が色々な人の日常に入っていくといいと思います。現代美術って日本ではまだまだ「よくわからない」、「難しい」と思われがちですが、表現の多様性を楽しんでほしいです。
ーー本日は貴重なお話をありがとうございました!
※1ゴールドスミス・カレッジ
ロンドン大学を構成するカレッジの1つ。総合大学として扱われるがアート系コースでも有名。
※2ホワイトキューブ
装飾などがない、白い空間。現代の美術館やギャラリーではオーソドックスな展示形態。
■高野さんの作品はWHYNOT. TOKYOのホームページでの閲覧・購入が可能です。