ARCTIC MONKEYS 興奮と熱気の坩堝! 別世界に連れていくという強靭な意志を持つロックンロール・ショー!

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ARCTIC MONKEYS 興奮と熱気の坩堝! 別世界に連れていくという強靭な意志を持つロックンロール・ショー!

ARCTIC MONKEYS @TOKYO GARDEN THEATER 3/12 (SUN)

なにしろ単独公演は2009年の日本武道館以来のこととなる。同年にリリースした『Hambug』といえば、昨秋7枚目のアルバムを発表した彼らにとって初期作にあたる3rdアルバムだ。その後の、2011年のフジロック(4th『Suck It And See』)および2014年のサマーソニック(5th『AM』)というフェス来日を含めても、今回はなんと9年ぶりの日本でのライヴ。しかも、会場は出音がいいことで知られる東京ガーデンシアターだ。期待せずにはいられない。

結論から書こう。この夜のアークティック・モンキーズの4人はそんな期待すらひらりと超えて、何から何まで素晴らしかった。曲によって合計4人のサポート・ミュージシャンが入れ替わりつつ、その場で音を鮮やかに見事に構築していく。音を聴く限り、今も彼らは同期を使っていない。つまり、上手くて潔い。

近年の2枚は緩やかなサイケデリック感のある音だが、なんの、ライヴではどれだけ音が重なっても濁らせず、エネルギーと躍動感をしっかりと前面に届ける。それを、両手を挙げたり指揮者のように振ったりしつつ、朗々と歌い上げるアレックス・ターナー(Vo&G)。別世界に連れていくという強靭な意志を持つロックンロール・ショウが、確かにそこにはあった。

ジェイミー・クック(G)のギター・プレイは以前よりもパワフルで自信に溢れ、「Four out of five」と「505」の2曲でキーボードを披露する姿とあわせ明らかな音楽的充実が見てとれる。そしてマット・ヘルダース(Ds)とニック・オマリー(B)のリズム隊の音は、時に太くセクシーに、時には跳ねながら、アルバムごとに変化を遂げてきたこのバンドの曲調に一つの揺るぎない軸を作っていく。

そして、アレックス・ターナー。今宵の千両役者、ロックンロール・ライヴというものをネクスト・ステージに押し上げるこの男には、まず登場時の姿からして驚かされた。黒い細身のスーツを白いヘンリーネック・シャツにサラッとまとい、ティアドロップのサングラスと、首にスカーフ。まるでダンディーでシックなパリジャンだ。ふんわりと後ろに撫で上げたヘアスタイルも似合っていて、例えるならばセルジュ・ゲンズブールのよう。1曲目の「Scluptures of Anything Goes」で早くも彼はマイク・スタンドを横にして両手で掲げ、会場をあおる。元々この曲は『The Car』らしいた緩やかな曲調だが、ライヴでは一転。ヴォリュームは大きく、音は大胆に重なり(サポート・ミュージシャン4人が総出)、パワフルなライヴ・アレンジだ。そんな中でアレックスは、両手を動かしたりしつつ朗々と歌い上げる。そういえば私が見てきたデビューから18年の歴史の中で、アレックスがギターを持たずに幕を開けるのは今回が初めてだ。この日はスタンド・マイクやハンド・マイクで歌う曲も多く、その都度アレックスのパフォーマンスが輝いていた。

そして2曲目は、畳み掛けるヘヴィかつ高速のビートで幕を開ける「Brianstorm」。そもそも2nd『Favourite Worst Nightmare』(2007)を代表するこの曲のエネルギーが尋常ではないことに加え、30代後半になり脂の乗った演奏力が裏打ちして、会場の色は一気に染め上げられた。この時点でもう、ライヴは成功を約束していた。

この日、アンコールを含めた合計21曲のうち最新作『The Car』からの曲は4曲。アルバムからの最多選出数は『AM』からの5曲だが、どの作品からも満遍なく選曲されている。
興味深かったのは、2022年に発表した4曲を除いた今回の17曲のうち、2017年のライヴを収録した『Live at the Royal Albert Hall』(2020年)でも演奏されていたのがなんと15曲(88%)。つまりコロナ禍の期間中を除いてもそれなりに長期間演奏してきた鉄板曲を中心にした選曲だからこそ、隅々まで完成形であり、曲によってはジャムでの色彩変化も可能になる。そして、慣れたつまらない演出にならないのは、さすがアークティック。毎回会場ごとのケミストリーを楽しんでいるからか。また、アンコールの2曲目「505」のように、キーボードではなく軽やかなドラムで斬新に幕を開け、テンポの早い曲に変貌した曲も。


そして本編最後の「Body Paint」こそ、本日の白眉だろう。ギター・バンドとして成長してきた誇りまで感じさせる、アレックスとジェイミーのほとばしるギター・サウンドがダイナミックに空間を満たすさまは感動的ですらあった。総合芸術としてのロックンロール(という語義矛盾さえも含め)の現在地はどこかを伝える、本当に美しい場所と空間に彼らは辿り着いた。
 一つ、腑に落ちることもあった。6th『Tranquility Base Hotel & Casino』(2018年)の後で、どうして彼らは最新作7th『The Car』(2022年)の音にたどり着いたのか。この夜の4人を見ながら、そのキーワードの一つとして“ライヴ”も重要だと気づかされた。なにしろライヴで魅せるのにぴったりの曲が『The Car』には揃っているのだ。そんな作品を彼らは、コロナ禍の中で作り上げた。

最後に書き添えておく。バンドがメンバー4人だけで演奏した曲が2つだけあった。「From the Ritz to the Rubble」と「I Bet You Look Good on The Dancefloor」、つまりあの1st『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』(2006年)からの2曲だ。正しい。さすがの判断である。彼らは我々を全部抱えて、さらに先へ行く。

Text by 妹沢奈美
Photo by SHUN ITABA


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