【AIRPAQ特別企画第2弾】「エシカルな暮らし」運営代表、学生起業家・山内萌斗さんインタビュー
廃棄される自動車の部品を再利用してバッグを製造するブランド「AIRPAQ(エアパック)」のブランドサイトローンチ記念の特別企画第2弾として、エシカル商品を扱うECサイトとSNS「エシカルな暮らし」を運営する株式会社Gab代表・山内萌斗さんにインタビュー。学生起業家としても注目を集める若き経営者に、起業に至ったきっかけやエシカルな生活を送るために大事にしていることなどを伺います。
ようやく見つけた人生懸けて登る山
――静岡大学情報学部を休学して起業した山内さんですが、そもそも起業家を志すようになったきっかけは何だったのでしょうか?
元々情報学部へは、教育を変えるサービスを作るためにプログラミングを学ぼうと入学しました。と言うのも、僕は中高時代あまり学校に馴染めなくて、ずっと居心地の悪さを感じていました。高校生までは教員になろうと思っていたのですが、教員になると自分の手の届く範囲が限られてしまうなと思い直して。僕と同じような生徒全員を救いきれないのなら、日本中の先生に使ってもらえるようなサービスを作って日本の教育を変えたいと思ったことがきっかけです。
――そこからどのようにして、教育からエシカルへと方向性が変わったのでしょうか?
大学1年の2月に行った、2週間のシリコンバレーでの留学が大きな転機となりました。まず、そこにいる大学生や教授達は「人生を懸けて事業を発展させた先に世界を大きく変えているのか?」という世界視点でビジネスを考えていました。でも僕が深掘りしてきたのは、自分起点の“あったらいいな”ビジネスだったんですよね。あったらいいなの「Nice to have」ではなく、人類に不可欠な「Must have」な事業を作るべきだということに気付かされて、帰国後は自分探しをするようにビジネスコンテストへの参加を繰り返していました。
――シリコンバレーで起業トピックが教育から別の何かへと移ったわけですが、その時点ではまだエシカルには辿り着いていなかったのですね。
そうなんです。決定的な出来事が起きたのは、9月に出たコンテストでのことです。渋谷のポイ捨て問題を解決するためのビジネスアイデアで優勝できたのですが、審査員の方に「ポイ捨て問題は氷山の一角だけど、その背景には大量廃棄・大量消費社会があって、根底には資本主義など根深い社会問題がある」と言われて、そこの解決を目指して深掘りしていけば、登る山としては人生を懸けられる「Must have」な領域に挑戦できるって思いました。僕が尊敬する小川領さん(株式会社タイミー代表)に「ここで起業しなかったらゴミ捨てる度に後悔するよ」「山内くんが起業するなら出資するよ」と言って頂けて、起業の意思が固まりました。コンテストが9月25日にあって、10月1日から休学届けの手続きをして11月に上京、12月10日に会社を設立しました。
――物凄いスピード感で驚きです。相当その一言が大きかったのですか?
はい、でも上京して3日間くらいは後悔していましたよ。「何してんだろう自分」って(笑)それまでゴミ問題とか全然知りませんでしたし、大学生活も家族も友達も全部地元にあったので、本当に全てを捨ててきてしまったような気持ちでした。それから上手くいかないこともありましたけど、挑戦することに対しての不安や恐れは幻だなって思えるようになりました。「地獄」と言うと大袈裟かもしれませんが、自分が泥臭い努力を着実にこなしていけば、何とかなるって視点を今は持てています。
社会課題を身近にするきっかけ作り
――そうして立ち上げた「エシカルな暮らし」ですが、ブランドを選ぶ上で大切にしている基準を教えて下さい。
まずひとつ目が「デザイン性に優れていること」、ふたつ目が実際に触ってみた時に、質感の良さだったり機能性の良さだったりなどの「感動体験があること」。そして最後にプラスαで「誰を助けているのかが明確であること」を大切にしています。
例えば、AIRPAQみたいに廃棄される車の部品から作られてゴミ削減に貢献している要素があると、欲しかったリュックを買うという行為にプラスαして、自分の意思で社会を助ける選択ができると、“ハードルを低く”社会をより良くすることができます。満足度の高い消費体験だと人に笑顔で話せますし、お勧めもしたくなるし、その人の幸せな顔や笑顔を見ると思わず「真似したい」って思いますよね。
――会社のミッションとして掲げている「社会課題解決の敷居を極限まで下げる。」もそこからきているのでしょうか?
そうですね。一部の人達のムーブメントで終わらないように、正しさの押し付けではなく、我慢や無理強いをするのでもなく、人は「楽しさで動く」ということを大事に毎日運営しています。「敷居を下げる」ことに関すると、実は僕が大学を休学しているのも「学生起業家」という肩書きが使えるからです。それだけで話を聞いて下さる投資家の方も多いですし、環境問題に強い関心がなくても学生起業家だから興味を持ってくれる、他にもインスタグラムが面白い、商品が可愛いとか最初のきっかけは何でも良くて、敷居を下げるための引き金をたくさん作っておきたいです。
――インスタグラムといえば、現在フォロワーは3.2万人に達し、どんどん増え続けていますね。投稿それぞれに印象的なフレーズを大きく配置したデザインになっていますが、何か意図はありますか?
例えば「アボカドは悪魔の実?」というフレーズを見ると「何これ?」って気になりますよね。タップして見てみると、いつも美味しく食べているアボカドの環境負荷などについて書いてある。環境問題って一見難しそうに見えて「実は自分の一生と深く繋がっているんだな」とか「勉強したら面白いかも?」って思えるきっかけのハードルを下げることを目的にデザインしています。アースカラー系の色で揃えるなどして世界観重視の運営をすることもできますが、もっと多くの人にリーチして社会課題解決の敷居を下げたいので、ある種のエシカル系の雰囲気には固執しないようにしています。
――「エシカルライフでやめてよかったこと」の投稿では、“他人と比較すること”や“100%を目指すこと”、“未来を悲観すること”など、エシカルライフに真剣に取り組んでいる人ほど感じてしまいそうな罪悪感や気持ちが並んでいるのが印象的でした。
僕たちのモットーは「無理なく楽しくやる」なので、僕も小さいことを自分なりに実践しています。我慢してヴィーガンをするとか欲しくないエシカル商品を買うとか、他人と比較して落ち込んだりして、自分が無理して怖い顔をしながらエシカルライフを送るのが一番良くないと思っているので、投稿を通じて「無理なく楽しく」が伝わってくれたら良いなと思います。
無理なく楽しく続けてこそのエシカル
――「エシカルな暮らし」の今後の展望を教えて下さい。
今後、他企業とコラボレーションしてオフラインのポップアップもやっていきますが、まずは情報収集プラットフォームになることを決めて日々活動しています。何か知りたいことがあればインスタグラムを見れば分かるし、欲しいものがあればECで買えるし、僕たちがやるポップアップに行けば面白い企画を楽しめるような状態を作って、最終的には日本から世界を代表するエシカルブランドを作りたいです。
――最後に、エシカルに興味がある方へ、山内さんなりのメッセージをお願いします。
やっぱり「無理なく楽しく」は凄く大事にして欲しいです。例えば、子育てで車が必要になった時、小さい電気自動車かガソリン車のミニバンを買うか迷ったのなら、僕は絶対にミニバンを買った方が良いよって伝えたいです。無理して小さい車を買ったことによって家庭内のトラブルが増えてハッピーじゃなくなってしまったら本末転倒ですし、ミニバンを買うのであれば、違うところでプラスチックを減らす生活をしてみるとか。何か別の選択をして、その選択の中でも自分ができて、自分がやりたいと思えることだけをすれば良いと思います。
起業家を志した山内さんが、自分が人生を懸けて登る山として選んだのは「エシカル」。学生起業家として「エシカルな暮らし」の運営に奮闘しながら、会社のメンバー達と一緒に深刻な社会課題にひたむきに向き合っています。山内さんが終始話してくれたのは、「無理なく楽しく」自分なりのエシカルをすること。インスタグラムには、エシカルに興味のある人も少し頑張りすぎてエシカルライフに息詰まった人も、多くの人に届くヒントが眠っています。どんな些細な行動が社会をより良くすることに繋がるのか、まずは覗いてみるのが良いかもしれません。無理なく楽しくは、気付くことから始まります。
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エシカルな暮らし 公式Instagram
Text : 千葉 ナツミ
Photo : 染谷 かおり