海苔を味わい、海苔を愉しむ。世界のfoodieをも魅了する「ぬま田海苔」4代目当主の挑戦

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海苔を味わい、海苔を愉しむ。世界のfoodieをも魅了する「ぬま田海苔」4代目当主の挑戦

飛鳥時代から続く日本の伝統食材「海苔」。和朝食の定番として、夜には晩酌のお供として、今もなお幅広い年代から愛されています。

海苔は、私たち日本人の食卓を陰で支えてきた名バイプレイヤーともいえる存在です。

…冒頭の文章を読み、「海苔は名脇役だ」とうなずいた皆さんに問います。

果たして海苔は本当に“脇役”なのでしょうか?

食のプロが集う東京・合羽橋。その一角に焼き海苔専門店「ぬま田海苔」があります。ここでは香り・旨味・風味の全てを満たした最高級海苔のみを厳選し、買い付け、販売しています。

「ぬま田海苔」の海苔は、まさに“主役級”です。ひと口頬張ると、香ばしい磯の香りが鼻に抜け、豊かな風味が口いっぱいに広がります。

今回は「ぬま田海苔」の沼田晶一朗さん(4代目当主)に、食べた者を虜にする美味しい海苔の魅力について伺いました。

−「鹿島第一壱◯2」を食べて驚きました…今まで食べてきた海苔と全く違いますね。とても美味しかったです!

ありがとうございます。「鹿島第一壱◯2」は、芳醇な味わいと上品な香ばしさが特徴の“初摘み海苔”らしい一品です。

−「ぬま田海苔」で扱っている“初摘み海苔”の特徴を教えてください。

初摘み海苔は「その年の1番最初に収穫された海苔」という意味です。海苔漁は毎年11月から3月にかけて、10回程度収穫を行います。漁が始まってから1週間以内に採れた海苔を“初摘み海苔”と呼びます。

私たちが初摘み海苔にこだわる理由は、やはり味です。海の栄養をたっぷり含んだ初摘み海苔は、やわらかくて風味も良く、とても美味しい。

ぬま田海苔では、数ある初摘み海苔の中から、さらに品質の良いものを厳選しています。国内で1年間に販売される海苔の中では1%にも満たない、希少海苔ばかりですね。

−先代の頃から初摘み海苔のみを扱っていたんですか?

いえ、昔は地元で採れた「大師のり」を販売していました。乾物問屋として、海苔の他に鰹節なども扱っていたんですよ。

昭和12年、私の祖父がぬま田海苔の前身である「沼田治雄商店」を開業しました。当時の店舗は合羽橋ではなく、神奈川県川崎市にありました。

その頃、川崎では海苔の養殖が盛んでした。いまの景色からは想像がつかないかもしれませんが、川崎の多摩川・鶴見川周辺はかつて干潟だったんですよ。2つの川から流れ込む水には栄養分がたっぷり含まれていて、海苔の養殖に最適な環境だった。川崎の海で育まれたミネラル豊富で味も良い江戸前の海苔は、地域の人々から「大師のり」と呼ばれ、愛されていました。

しかし、工業地帯の造成や埋立地化により、川崎の漁場はどんどん狭まり、ついに消滅してしまいます。そして「大師のり」も採れなくなった。

私たちは「大師のり」に代わる海苔を探し求め、有明海産の初摘み海苔にたどり着きました。有明海産の初摘み海苔は、歯切れと口溶けが良く、自然の美味しさが詰まっている。かつての江戸前の味に最も近かったんです。

それからは「有明海産の初摘み海苔」のみを扱っています。

−「有明海産」「初摘み」の他にもこだわっている点はありますか?

最高品質の海苔を最高の状態でお届けするため、“焼き”にも気を配っていますね。

海苔は店頭に並ぶまでに、3回ほど火を入れます。うちでは2回焼いた「干し海苔」の状態で保管し、毎月必要なぶんだけ追加で焼き、「焼き海苔」として販売します。

新海苔の旬は1、2月ですが、こうすることで1年中新海苔のような美味しさを提供できます。

さらに焼き加減もこだわっています。

ステーキに「レア」「ミディアム」があるように、海苔の焼き方にも種類があるんですよ。うちでは「強焼き」という方法をとっています。

海苔はもともと海藻なので、水分が含まれています。その水分が劣化すると、独特の磯臭さが出てしまう。それを防ぐため「強焼き」で水分を飛ばしています。

−「ぬま田海苔」の商品は、どれも名前が個性的ですね。

うちは名前をつけてないですよ、入札の際に海苔の検査員がつけた等級をそのまんま使っているので(笑) 

入札時の名称なんて、一般の方はなかなか目にする機会もないですよね。暗号みたいで不思議に思う方も多いかもしれません。

実は海苔の等級は各漁場で異なり、場所によっては100を超えることもあります。漁場の違いによる繊細な味わいを伝えるため、あえて入札時の名前をそのまま商品名にしました。

皆さんに産地を知ってもらうきっかけにもなりますし、何よりこれが海苔本来の名前ですから。

−オリジナルブランド「稀」シリーズは、その名の通り“希少海苔の中の希少海苔”ということですか?

現在「鹿島第三味推上2」を「稀」シリーズとして販売しています。佐賀県の鹿島第三漁場で収穫された、超希少な海苔です。

先ほども話した通り、海苔には等級があります。「鹿島第三味推上2」の“推”は、いわば“推し海苔”という意味です。

初摘み期間のうち最初の3日間で摘み取った海苔の中から、色艶・味・香りの三拍子が揃ったものにのみ、この評価がつけられます。

今年初めて仕入れた「鹿島第三味推上2」は、この“推”等級に加え、最高品質の美味しさを示す“味”等級がつけられた「見た目・味ともに最高品質の海苔」です。

海苔って3600枚/箱で仕入れるんですよ。今年の佐賀県の鹿島第三漁場の初摘みでは、“味推上2等級”のものはたった1箱しかありませんでした。

そう数は多くありませんが、とても美味しい海苔をぜひ味わっていただきたいと思い、「稀」として発売しました。

−「ぬま田海苔」には有名ショコラティエ「ピエール・マルコリーニ」をはじめ、海外の有名パティシエ、シェフも続々と来店していますね。

Netflixの人気シリーズ「CHEF’S TABLE」に出演していたシェフのダレン・マクレーンは、海苔が大好きで、もう4回来てますよ(笑) それ以降はカナダに海外発送しています。

ダレン・マクレーン氏 ぬま田海苔来店時の様子

ピエール・マルコリーニをはじめ、ロジャー・バンダムなどの名パティシエの方々も来店されましたね。彼らは“香り”をとても大切にしますから、海苔特有の磯の香りが面白かったのかもしれません。

「海苔」は英語で「Seaweed」と言います。しかし彼らは総じて「NORI」と呼ぶ。きっと日本の食材に対する相当な知識があると思うんです。

そのような方々に「美味しい」と感動していただけたのはすごく嬉しいですね。

−外国人の方もよく来店されるんですか?

いらっしゃいますね。外国人のお客様は、海苔を試食してとても驚かれます。「美味しい!」って(笑)

例えばオランダの方は、ゴーダチーズが大好きなんですよ。なのでゴーダチーズに合う海苔を提案すると喜んでくださいますね。

−海苔とチーズのペアリングは意外性のある組み合わせですね。

ゴーダチーズには「鹿島第一壱◯2」、モッツアレラなら厚みがある「芦刈壱重1」が合います。青のりが混ざった「網田混1」はゴルゴンゾーラと合わせると美味しいですよ。

味が濃い海苔には、発酵バターをひとかけら乗せて食べるのがおすすめです。舌がバターの油分でコーティングされて、海苔の旨味が口の中に残ります。

食材を基準に海苔を選べるのは、それぞれ個性が違う海苔を扱っているからこそできることかもしれません。

もちろん白米との相性もばっちり

−海苔をつまみに飲むのは日本酒のイメージでしたが、チーズやバターと合わせればワインにも合いそうですね。最近流行りのクラフトビールにはどの海苔が合いますか?

「鹿島第三初◯2」など、深い旨味と甘味を持ち合わせた海苔が良いですね。クラフトビールの程よいビター感をより引き立ててくれると思いますよ。

−食べ方の提案や焼き立て海苔の試食サービスなど、美味しい海苔への期待感がいっそう高まりますね。

私は実家を継ぐまで、約17年間アパレル業界で働いていました。その会社には「洋服を売る以上のことをしよう」という社風があったんです。ご来店くださったお客様に感動や驚き、喜びなど、商品以外の価値を届ける。とても素敵な考え方だと思いました。

このマインドは海苔屋になった今も変わりません。服を売るのも、海苔を売るのも、《お客様に良いものの価値を伝える》というベースは同じです。老舗海苔屋に生まれて、家業を継いだからには、海苔の語り手としてその魅力をたくさんの人たちに伝えていきたい。

食べ方の提案や海苔の試食などを通して、「海苔ってすごいな」と感じていただけたら嬉しいですね。

−海苔の魅力を伝える語り手として、今後どのようなことを伝えていきたいですか?

海苔には、伝統食材として受け継がれてきた理由があります。長期保存ができて、栄養があり、白米と一緒に食べると効率的にエネルギーが摂取できる。さらに3つの旨味成分も含まれています。海苔は科学的根拠を証明する手立てもないはるか昔から、「美味しい食べ物」として残り続けてきた意味のある食べ物なんです。

私は皆さんの海苔に対する期待感をもっと育てていきたいですね。そのために新しい食べ方の提案やオリジナル製品の開発を進める予定です。

だって「美味しそうだな」と思って食べたものが実際に美味しかったら、幸福感が何倍にもなるじゃないですか(笑) 事実、ぬま田海苔の海苔は、その期待を裏切らない自信もあります。

海苔の可能性を広げ、たくさんの人に伝えていけば、未来へとつながる新しい道が開けると信じています。

(了)

取材・文/佐藤優奈


公式サイト: ぬま田海苔 

オンラインショップ:ぬま田海苔 オンラインショップ

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Sato Yuna

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