彫刻家、坂本紬野子の軌跡「京都初個展で挑む焼き物表現の可能性」

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彫刻家、坂本紬野子の軌跡「京都初個展で挑む焼き物表現の可能性」

国内外で活躍する彫刻家、坂本 紬野子(さかもと ちのこ)さん。明日から「青山Graphpaper Aoyama」で個展「Uneven Matters」を開催します。本インタビューでは、坂本さんがアーティストとしてどのようにサバイブしてきたか、また4月3日に京都「VOU / 棒」で開催される個展「Textures of Encounter」での新たな挑戦についてうかがいました!

—陶芸を始めたきっかけを教えてください。

坂本さん: ロンドンの芸術大学に進学して、最初は彫刻を制作していました。そこのコースがコンセプトを重要視する環境だったんですね。作品のコンセプトを深めるために本を読んだり、ギャラリーに通っていると「私は何を造ればいいんだろう……」って煮詰まってきて。だんだん作品を造ることが怖くなってしまったんです。

1回生の終わりくらいに、たまたま大学内の陶芸ワークショップに参加しました。そしたら本当に楽しくて。チューター※1が良くしてくれたのもあって、通いつめました。当時は自分用にカップや小皿をつくっていましたね。本当にただ趣味で陶芸教室行ってるみたいな。

今思えば、日用品とか民芸品に興味があったし、海外の不自由な環境にいて、自分のアイデンティティについても考えてる時期で。陶芸に触れていくうちに、壮大なコンセプトのある現代アート作品を造り出すより、用途のあるものと触れ合っていくことがやりたいなと気づきました。

現在のスタイルにはどのように行き着いたのでしょうか?

坂本さん: 次に今までの知識とコンセプチュアルな思考と、今自分が一番興味のある陶芸を少しずつ融合させなくてはと思い始めました。丁度日本の恩師が出張でロンドンに来ていて、それを相談したら「完成した陶芸を作品の素材と考えたらいいんじゃない?」って。

陶芸に取り組んでいる時は「もうちょっとここの形を丸くしてみようかな」みたいな感じでそれだけに集中して、できてしまったものマテリアルとして、客観的な視点でもう1回広げていくみたいなことをしました。在学中は陶芸に打ち込みながら、自分はどんなアートをやっていきたいのかを考えるだけで終わりましたね。

卒業制作で1個これってやりきりたいと思って造った作品が今のスタイルの原型っていうか。でもその焼き物は大きくて、縦1mくらいありました(笑)。それを縮小したものを現在造っています。

—本当に陶芸がお好きなんですね!

坂本さん: 結局、焼き物でただ作品を造り続けてるだけなんですよね。今だに制作しながら結構苦しんでるし、葛藤もしています。必死にやってきた結果として、現在のスタイルになってるんですけど、これから違うもの、新しいものを造っていこうという予定はあります。

賞に応募する、スカウトされるなど様々な道があると思いますが、坂本さんはどうやって陶芸家としてのキャリアを築いていったのでしょうか?

坂本さん: 卒業後、縁があって、もう1年ロンドンに滞在しました。友達のスタジオを間借りしてひたすら粘土で造ってました。家は寝に帰るだけでしたね。

賞ではなく、クラフトフェア※2には参加しまくって、2ヶ月に1回は出てました。当時は作品の販売とアーティスト友達のアシスタントのバイト代で生計を立てていました。もう20ポンドとかの売り上げに必死で「よしこれで3日間やっていける!」みたいな。

あとInstagramもその頃に始めて。本当に当時無名だったんですけど、意外と作品を買いたいってDMがきたり。そこからだんだん、継続的に買ってくれる人が現れ始めて。ヨーロッパとかだとまだ売れてない作家を見つけてコレクターになるのが好きって人が結構いるんです。そういう意味では、日本より敷居は低かったかもしれません。

1度築いた繋がりは続いていくというか、現在も、海外からメールでご依頼をいただくこともあります。

坂本さんは帰国後、日本ではどのようにサバイブしていますか?

坂本さん: まだロンドンに住んでいるときに「CURATOR’S CUBE※3」っていうギャラリーから突然連絡をもらいました。「スケジュールが空いているので個展をやらないか?」って言ってもらって。当時、大きなフェアがあってロンドンから離れられなかったので、作品を送って、私不在で初個展をやっていただきました。ありがたいことに、それが成功しました。そこからいろいろとオーダーや展示のお誘いをいただいて、今に繋がっていますね。

作品の魅力はもちろんですが、坂本さん自身の努力や行動力、謙虚さがあっての活躍だと思います。

坂本さん: いやいや! 私個人がここまで制作活動をして生きてこれたのは、今まで出会った人たちに、少しずつ色んな方法で教えてもらってきたからだと思います。何ごとも1人で考えて行動するのには限界がありますし、人に教えてもらった知恵を頼りにして、結局は経験してみるしかないという気持ちで進んできました。

ここからは4月京都で開催予定の個展について聞かせていただきます! 今回はどのような作品を制作しますか?

坂本さん: 京都の展示はいつも制作している花瓶などとは違って、用途がはっきりしていないコンセプチュアルなものを発表します。サイズも大きく約30~40cm四方の平べったい作品になる予定です。

制作するにあたって、インスピレーションを得たものなどはありますか?

坂本さん: 粘土での制作には関係なく、なんとなく帰り道で「この植木が並んでる感じおもしろいな」と思ったら写真撮ったりとかするんですよ。それが結構たまってて。今回の作品の出発点は、陶芸を始める前から今まで、興味を引かれて撮影した風景や物を整理したことですね。

「そこで感じた「何か」って何なのか?」って写真を見返したり、考えてみたりっていうのをアートを始めて10年くらいずっとやろうとしてるはずなんですよ。でも、未だにそれを言葉で説明したりするのは難しくて。自分にとって、そういう何とも言いきれない曖昧な何かを懐深く引き受けてて形にしやすい素材が粘土です。

また、粘土を1度焼いたものって後世までずっと残るっていうのも重要で。例えば縄文時代に親が子供の歯型を取って焼いたものが出土したり。それは、ただ記録を取るだけではなくて、私が撮りためてきた写真のように、何か感情の動きがあって造られたはずです。

普段感じている言語化できない感覚を粘土で再現してみようということでしょうか?

坂本さん: そうですね。それが今まで制作してきたシリーズとの違いですね。

個展全体で特に注目してほしいポイントはありますか?

坂本さん: 今回、展示方法をちょっと工夫しています。メインが今までやったことない平べったい作品なのでテーブル什器に並べて展示する予定なんですけど、それと組で椅子も展示空間の一部として配置する予定です。

展示に使用されているテーブルの周辺に椅子が配置されているのは初めて聞きました!

坂本さん: 空間ギリギリまで使ってやります(笑)。椅子にゆったり座って鑑賞すると、平べったい作品たちが並んでいるのが1つの景色というか。

私は空間への興味がすごくあるんです。視点を移動させながら凹凸感とかテクスチャーの違いとかを観る時に人は空間を感じるのかなって。つるっとした面だけを観るのもいいけど、ザラザラした箇所を観た後にまたつるっとした面を観た時に何かが生まれると考えています。

ギャラリースペースとかも、外に喧騒があって、ドア1枚隔てた中にまた違う空間がある時に人は雰囲気を感じると思うんですよね。そして、外に出た時にあの空間って何だったんだろう? と感じることがあります。

今回の展示は、作品の持つ空間とゆっくりコミュニケーションが取れる場になればと思っています。


※1 チューター

大学の講師。

※2 クラフトフェア

アーティストが作品を販売するイベント。アートフェアとも呼ばれている。大規模なフェアでは作品審査があることも。

※3 CURATOR’S CUBE

東京西新橋にあるアートギャラリー。才能ある新人作家の発掘に力を入れている。


3月27日よりGraphpaper青山におきまして彫刻家 坂本紬野子による企画展 “Uneven Matters”を開催。

詳しくはこちらの記事からどうぞ:彫刻家 坂本紬野子による企画展 “Uneven Matters”のお知らせ

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Hibio Rikaco

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