映画館を知ること、守っていくこと

映画館を知ること、守っていくこと

アップリンク、ユジク阿佐ヶ谷の件など、この数年で相次いだミニシアターでのハラスメント問題は、映画ファンとして、映画館で働く者として大変ショッキングなニュースでした。

また、同じ頃には映画雑誌『映画秘宝』に関する騒動も話題になっていましたが、どのくらいの方がこれらについて知っているのでしょうか。

映画に関わる方たちの中でもこの件にはあまり積極的に触れていない方もいます。自分が好きな映画、映画館に関する暗い話題なので、できれば知らずにいたかったし、あまり大ごとにしたくない、なってほしくないという気持ちは私にもあります。

しかしぜひたくさんの人にこれらのことを知ってもらって、その上でたくさんの人に映画館、ミニシアターに足を運んでもらいたいと思っています。

UP LINK

全国のミニシアターがこのコロナの影響を受けてどのような状況なのか。
そんな中で映画館とスタッフの両方を守っていくことがどれほど難しいことなのか。

なんとなく想像はできていたつもりだったのですが、実際にアップリンク、ユジク阿佐ヶ谷元従業員の方の告発内容を読んでみると、あまりにもひどくて大きなショックを受けました。

もし知らないという方がいたら、ぜひ一度関連記事に目を通していただきたいと思います。

ミニシアターの問題が話題になったとき私が一番に考えたのは、それが自分の劇場ではなくて良かったということでした。様々な原因によって引き起こされてしまったことなのだと思いますが、その原因というのは今回問題になった劇場にあるだけではなく、他のどの劇場にも少なからず同じ種があると思うからです。

映画館の内実

少しだけ私が働いている映画館の話をさせてください。

私はアルバイトスタッフとして5年程映画館で働いています。所謂ミニシアターの分類に入る大きくはない映画館で、客層はシニアの方が多く、派手さはないですが良い映画を上映している落ち着いた映画館です。コロナの影響もあるのか、年々劇場には活気がなくなっています。平日のお昼は常連のお客さんがポツポツ。
レイトショーは0人という回がある日も珍しくはありません。私の時給だけで大赤字です。

そんな状態なので私たちスタッフのお給料は高くはありません。アルバイト時給は最低賃金に1円単位でぴったりです。そしてお客さんが来ないからといって仕事がないわけではなく、日常的なほとんどの業務をアルバイトスタッフが行っています。日々の接客はもちろん、毎日の上映のための映写業務、上映素材のチェック、映写機の調整、売店商品やコラボメニューの開発、パンフレットやチラシ、ポスターなどの在庫管理、館内掲出物、イベントチラシの作成などなど……。
営業時間外でしか行えない作業もあるため、朝6時に出勤したり、夜23時に閉店してから夜中に残らなければならない日もあり、こんな時間に働くなんて聞いてないよと思ってしまったりもしました。
レベルは違えど、恐らくどの映画館も同じような状況なのではないでしょうか。

同じような問題がもっと悪化している劇場はきっと少なくないはずです。
どうしても規定の労働内容だけでは営業が続けられない、スタッフのお給料が払えない、お客さんが少なく静かな映画館は観客としては落ち着いて良いのですが、その一回の上映にかかるコストを全く回収できていないのではないでしょうか。現にアップリンクやユジク阿佐ヶ谷に続き、他の劇場からもパワハラや労務問題に関する告発が相次ぎました。残念ですが、どこの劇場にもそういったことが起こってしまいやすい体質があるのではないかと思います。

幸い、というか当たり前なのですが、私が働いている映画館ではセクハラ、パワハラなどはほとんどなく(ほとんど、というのはパワハラを理由に退社した上司がいたためですが、その後真偽はわかりません)労働環境も悪くはありません。きちんと契約書があり、社会保障があり、有給が付与されてそれを使うことができます。業務内容についても想像より重かったとはいえ、常識の範囲内だと思います。
そのおかげで私は毎日呑気に楽しく好きな映画に囲まれて働くことができているのです。

だから、私は映画館が好きだ 

映画館はとても特殊な場所です。

たくさんの人が、多い時には200人近くの見ず知らずの人たちが、ひとつの部屋に集まって同じ映画を観る。
真っ暗な劇場の中で、周りの人の気配を感じながら、あるいはたくさんの人がいるのに一人きりで没頭しているような感覚になりながら。
私は映画を観ている間、まるで自分がこの現実の世界にいないような感覚になります。映画の世界に入り込んでいるのとも少し違って、この世でもなく映画の世界でもなく、その間にある不安定なところをゆらゆらしながら、じっと映画の中で起こることを俯瞰していて、たまにふと現実の世界を振り返ると今までと全然違って見えたりする、そんな感覚になるのです。

それは家でスマホやパソコンの画面で観ているときにはない感覚で、やはり映画館で観るからこそ、そんなふうに集中できるのだと思います。
映画館で映画を観るという体験の面白さは、映画自体の面白さとは別です。それの虜になってしまった人たちが、きっと毎日のように映画館に通っているのでしょう。

映画館に来るお客さんが全員映画を観て帰る訳ではありません。私が働いている映画館にはカフェスペースが設けられており、ジュースやポップコーンだけでなく、パンやちょっとしたお菓子なども販売しています。

映画を観ない人でもカフェスペースを利用することができるので、ふらっとやってきて、ロビーで流れる予告を観ながらコーヒーを飲んで帰るお客さんもいます。館内の掲出物を見て、気に入ったチラシを何枚か持って出ていく人もいます。とりあえず来てみて、丁度良い時間の映画がないとそのまま帰っていく人もいます。若い女の子たちがわいわいと入ってきて、「オシャレだね~知らない映画ばっかり~」と言って出て行ってしまったりもします。

もちろん映画を観に来てくれたら一番良いのですが、まず映画館に足を踏み入れてくれるということが私にはとても嬉しく感じます。映画を観るつもりがなくても、映画館に行って良いのです。

まずは映画を日常に

NetflixやAmazon prime videoなど、最近は動画配信サービスもとても充実しています。気軽に映画を観られるようになったのだから、どんどん映画を観て、映画を観ることに慣れていって欲しいと思います。
2時間画面の前から動かず集中して観ろとは言いません。むしろ、家事をしながら、ご飯を食べながら、映画を観ることが生活の一部になったら良いなと。それには配信がとても便利で、私も家で料理をしているときにはスマホで映画を観ています。

初めて観る映画はもちろん、何度も繰り返し観ているお気に入りの映画をBGM代わりに再生しておくのも、とてもおすすめです。映画を観ることが日常的になれば、映画館に行くこともきっとすぐに日常的になります。

深田晃司監督、濱口竜介監督が発起人の「ミニシアター・エイド」、井浦新さん、斎藤工さん、渡辺真起子さんらの「ミニシアターパーク」、SNS上での「SAVE the CINEMA」運動など、ミニシアターを守ろうという活動がたくさんあります。

ミニシアターパークの劇場支援グッズ、売上はすべて販売劇場の収益となります。 
上記オリジナルステッカーの他にオリジナルマスクケース(不織布マスク付き)などがございます。

大きな活動以外にも、ミニシアターを支えようと思ってくれている人がいます。先日、おばあちゃんのお客さまが一般料金1,900円でチケットを購入されました。「本当はシニア料金だけど、これは映画館への寄付よ」と。「映画は安く観させてもらっていて悪いから」と毎回ドリンクを買ってくださる方もいます。
劇場は来てくださる方たちひとりひとりに支えられています。みんな、映画や映画館が好きな人たちばかりです。

現在、大きな支援から個人の小さな支援まで、さまざまな力が映画館にはたらいています。映画が大好きな人たちはもちろん、そうではない人たちにも「興味を持ってもらうこと」それだけで十分な力になるので、ぜひ少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。

文:長谷川汐海

“The movie is total art”
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People

長谷川汐海 (はせがわしおみ)1996年愛知県出身。名古屋学芸大学映像メディア学科卒。同科では映画プロデューサーの仙頭武則氏に師事。監督作『repeat in the room』は雑誌、映画秘宝の斎藤工さん連載コラムで紹介される。大学卒業後は名古屋の映画館で働きながら制作を行っている。

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