Black Country, New Road 緊張感と高揚感に包まれたドラマチックなステージ フジロックのライブレポート

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Black Country, New Road 緊張感と高揚感に包まれたドラマチックなステージ フジロックのライブレポート

今年2月に発表した新作『Ants From Up There』が全英3位を獲得し、デビュー作から2作続けてのトップ5入りを記録したブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下、BCNR)が初来日。アルバム発売の4日前にバンドの中心人物で、メイン・ヴォーカルを担当していたアイザック・ウッドがメンタル・ヘルスの問題により離脱することが発表されたものの、残った6人はアイザックを尊重して過去に発表した曲は演奏せず、新曲のみでツアーを回ることを決断し、ここ日本にもやってきてくれた。アイザック在籍時の、いわば「第一期」のBCNRが体験できなかったことは残念だが、裏を返せば、新たなチャレンジに挑むバンドの姿を目撃できる貴重な機会になったと言えるだろう。

前日にヘッドライナーを務めたジャック・ホワイトに影響されてか、「Seven Nation Army」をSEにステージに姿を現したメンバーは、全員がそれぞれ異なるフジロックのTシャツに短パンという「初めてフジロックに遊びに来た大学生ですか?」という服装で思わずにやり。デビュー当初こそ折衷的なアレンジメントと意味深なバンド名から「理知的な音楽集団」という印象もあったが、彼らは10代半ばからの親友同士であり、それぞれの音楽的なバックグラウンドを尊重しながら、楽しんでバンド活動を行っていることが、その飾らない雰囲気からも感じられる。

前述の通りセットリストは新曲のみで構成されていたが、どの曲も6人でより自由に制作を行っているであろうことが伝わってくる曲ばかり。1曲目はサックスのリフレインを基調としながら、突然パンキッシュなビートが入ってくる静と動の対比が印象的だし、2曲目は3部構成で巧みな展開を作る物語性の高い仕上がりで、かと思えばメンバーが指揮者になって、ピアノとヴァイオリンとフルートのみで優美なアンサンブルを披露したりも。アイザックという軸を失ったものの、現在は曲ごとに各メンバーがそれぞれアイデアを提供することで、これまで以上にカラフルな楽曲が生まれているのかもしれない。

ヴォーカルはベースのタイラー・ハイド、キーボードのメイ・カーショウ、サックス/フルートのルイス・エヴァンスが交互に担当。アンダーワールドのカール・ハイドの娘としても知られるタイラーは歌声や立ち姿からアーティスティックな雰囲気が感じられ、曲によってはボーイング奏法も。母親が日本人で、MCでは流暢な日本語も披露したメイは透明感のある歌声が特筆すべきで、途中バンドネオンを演奏する場面もあり、トラッドのシンガーのような印象も受けた。ステージの中央に立ち、サックスとフルートをこまめに持ち替えて演奏したルイスは決して上手いシンガーとは言えないものの、はにかみながらの好青年ぶりからバンドのムードメーカーであろうことが伝わってきた。

さらには、新作を控えるジョックストラップのメンバーとしても活動するジョージア・エラリーがヴァイオリンでバンドのクラシック的な側面に大きく貢献すれば、ギターのルーク・マークは繊細なアルペジオで、ドラムのチャーリー・ウェインはときおり出てくる手数の多い激しいドラミングで、それぞれポスト・ロックとのリンクを感じさせたりも。やはり、かつては交わらなかったかもしれない個性が融合した上で、あくまでポップ・ミュージックを鳴らすということが、BCNRの現代性を担保しているのだと思う。

ライブの後半ではメイとジョージアのみで弾き語りを聴かせ、残ったメンバーはステージにしゃがみ込んでリラックスしながらその演奏を聴くというユーモラスな場面もありつつ、タイラーがヴォーカルを務めた最後の曲では、中盤のハードコアなリズムからピアノのミニマルなフレーズによるブレイクを挟んで、最後に合唱へと至るドラマチックな展開で大団円。タイラーはアウトロで感極まったように涙ぐみ、メンバーとハグをしながらステージを終えるという感動的な光景に、オーディエンスから大きな拍手が贈られた。

後日メンバーにタイラーの涙の理由を聞いてみると、「お父さんと一緒に日本に来たことはあったけど、自分のバンドで来るのは彼女の夢だったから、感極まったんだと思う」とのこと。ステージ上の雰囲気はあくまでチアフルなものだったが、やはりアイザックの離脱という苦難を乗り越えてバンドを続けることを選択したのは大きな決断であり、それゆえの涙でもあったのだろう。友人関係を前提としながら、異なるバックグラウンドを持つ彼らの旅がいつまで続くのかは正直わからない。ただ、この日の素晴らしいステージからは、バンドの行く先をもっと見てみたいと思わずにはいられなかった。そして願わくば、いつかアイザックが戻って来た形でのステージも実現してほしい。

文:金子厚武


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