ストレスを乗り越える レジリエンス強化のための音楽鑑賞メソッド

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ストレスを乗り越える レジリエンス強化のための音楽鑑賞メソッド

目次

  1. ストレス抗体としてのレジリエンスと音楽の関係
  2. ドーパミンによるレジリエンス強化のメカニズム
  3. ドーパミンを誘発する音楽の選択メソッド
  4. 自分で自分を守ることは、同時に誰かを守ること

「1-800-273-8255」とは自殺予防相談の電話番号。LOGICが本作をリリースして以来、電話で自分の鬱症状や問題を相談する人が大幅に増えた。

Logic – 1-800-273-8255 ft. Alessia Cara & Khalid (2017) YouTube

WHO(世界保健機構)によると、2018年時点で世界の鬱病患者は3億人を上回る。これに関連する自殺は30万件にも及んでいると推定されている。

これは2018年時点で推定された数字であるから、新型コロナウイルスに脅かされた2020年、そして2021年における患者数はより増加してしまっている、と推定することができるだろう。

閉塞的な生活をせざるを得ず、周章狼狽しているうちに従来の当たり前や日常は新しいものにすり替えられ、それら「ニューノーマル」に順応していかなくてはならない。

新しい生活様式とそれに伴う凡庸な生活に慣れてきたとはいえ、生きているだけでもトラブルというものは隆起してくる。それなのに「他人に頼る」ということの難易度も著しく高まってしまった。結果として、人類は「自分の身は自分で守る」ということの困難さや重要性、真意を知り、実践することとなったのだ。

ストレス抗体としてのレジリエンスと音楽の関係

ストレスボールは手を離せば形を取り戻す

自分の身を自分で守るため、外的要因を未然に防ぐことは容易ではない。

感染や外出自粛以外の何らかのトラブルが起き、巻き込まれてしまったと仮定する。その際に食らう外力による歪み、つまりストレスは、大脳辺縁系を伝わり交感神経を中心とした自律神経系を襲う。それに抵抗すべく脳内ホルモンが消費され、不安や抑鬱といったペシミスティックな感情が生じ、更には睡眠障害や食欲不振といった身体的不調が露見してくる。

そういった不慮の事故や歪み、宿してしまったネガティブから、自分で自分の身を守るためには、それらを跳ね返す力、精神医学用語でいう「レジリエンス」を鍛える必要がある。

このレジリエンスを強化するために提案したいのが「音楽鑑賞」だ。音楽によってストレスを乗り越える。

音楽は脳にポジティブな影響を与える。これについては多くの報告が上げられており、科学的にも証明されている。

例えば、1996年に京都大学※1で行われた、健康な被験者に対し同一体位の保持によるストレスを負荷し、音楽の心理的効果と脳に及ぼす影響を調べた実験では、音楽により不安が減少し、快のレベルが上昇することが認められた。

音楽療法というセラピーが存在しているということからもその信憑性の高さが窺えるだろう。

ドーパミンによるレジリエンス強化のメカニズム

音楽により不安が減少し、快のレベルが上昇するその理由は、好きな音楽を聴くことで「快感物質」や「やる気ホルモン」と呼ばれるドーパミンの分泌が促進されるからだ。

カナダ・マギル大学の研究チームは2009年、米科学誌『Nature Neuroscience (ネイチャー・ニューロサイエンス) 』に「音楽はドーパミンを分泌させる効果がある」という内容の論文を発表した。

8人の被験者にそれぞれ好きな音楽を聴かせ、その最中の脳をMRIで撮影したところ、被験者の感情が高揚しそれがピークに達した時、ドーパミンが脳の線条体部分に流れ込んでいるのが確認されている。

さらに「好みのフレーズが始まる」と考えただけでドーパミンの生成が促進されていたということも発表されているのだ。

Joseph Karl Stieler – Portrait of Ludwig van Beethoven when composing the Missa Solemnis (1820) 【Wikipedia】

18世紀の音楽家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (Ludwig van Beethoven) の言葉に「I wish you music to help with the burdens of life, (音楽があなたの人生の重荷を振り払う助けとなりますように、)」というものがある。

音楽を聴くことによって生まれる「喜び」という抽象的な存在が、人生の重荷を減らす手助けをしてくれる。ベートーヴェンが抱いていた切なるデザイアは、21世紀、科学的によって証明され、叶っている。

ドーパミンを誘発する音楽の選択メソッド

Marilyn Manson – This Is The New Shit (2003)
公式YouTube

そして音楽鑑賞によるドーパミン分泌の促進は、各々が好きな音楽を聴いた際に確認されているため、感情をポジティブな方向へと誘導するために聞くべき音楽は人それぞれ、ということになる。

早速私は携帯を開き、マリリン・マンソン(Marilyn Manson) の「This Is The New Shit」(2003) をライブラリからチョイスして流してみた。これが本当最高。マンソンが「This is the new shit, stand up and admit」と憎悪を吐き散らかすかのようにシャウトするところでいつも通りヘッドバンギング。マリリンマンソン降臨。確かに忘我するような快楽を感じる。

しかし、マインドがポジティブになったかと聞かれたらニュアンス的に若干違う気がする。どちらかと言えば、エネルギッシュになったとか、強くなったという感じだ。

実は、パンクやハードロックといった激しい系統の音楽は「怒りホルモン」と呼ばれるアドレナリンを分泌させるため、視聴者が攻撃的な気分になる可能性があるそうだ。

「This Is The New Shit」を聴いたことによって生起した「自分無敵説」の原因は、どうやらアドレナリンらしい。

Jaden – GOKU (2018) 
公式YouTube

ネガティブな感情の反芻を防ぎ、ポジティブな方へ情動誘導したいのなら、没頭することのできる楽しい音楽がおすすめだ。

私の場合は、ジェイデン (Jaden) の「GOKU」(2018) なんか分かりやすくて良いな。元気になれる。

要するに、音楽鑑賞によってレジリエンスを強化するためには、聞くべき音楽を自分で選ぶことと音楽による喜びを思いっきり享受することが重要だ。

自分で自分を守ることは、同時に誰かを守ること

Gustav Klimt – The Beethoven Frieze: The Longing for Happiness Finds Repose in Poetry. Right wall (1902)
グスタフ・クリムト – ベートーヴェン・フリーズ「歓喜の歌」(右の壁)

日頃から、音楽に対して受動的ではなく積極的になることを心掛けてみて欲しい。

そうすることで、目前に開けた暖色の世界に気付くことができるだろう。そこで自分と対峙し、自分に積極的になることができれば、他人に対してもそう在ることができるはずだ。

上に記したベートーヴェンの言葉「I wish you music to help with the burdens of life, (音楽があなたの人生の重荷を振り払う助けとなりますように、)」には続きがある。

「and I wish you music to help you release your happiness to others. (音楽が、あなたが他の人たちと幸せを分かち合う助けとなりますように)」


※1.京都大学 音楽の心理的効果と身体に及ぼす影響

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/49406/1/16_89.pdf


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kozukario

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