目指すは“現代の売茶翁” VAISAが贈るネオ日本茶ものがたり
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目指すは“現代の売茶翁” VAISAが贈るネオ日本茶ものがたり

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夏も近づく 八十八夜。

立春から数えて88日目にあたる「八十八夜」。日差しもまぶしさを増し、初夏の気配が漂うこの季節は、新茶の収穫時期として知られています。

かつて日本茶は高級品とされていました。しかし、明治時代には子どもの手遊び歌にもなるほど、庶民にとって身近なものになりました。

その背景には江戸時代の僧・柴山元昭の存在があります。彼は禅の教えを説くため、お茶を売り歩きました。ユーモラスな人柄で、どの身分にも別け隔てなくお茶を振る舞う彼の周囲には、沢山の人が集まったといいます。人々は親しみを込めて、彼を“売茶翁”(ばいさおう)と呼びました。

2016年、お茶を飲む時間の大切さを伝えるべく立ち上がった“現代の売茶翁”がいます。

今回は日本茶ブランド「VAISA」の郡司淳史さん(株式会社心電/代表) と、江戸時代から令和へ、そして未来へと続く日本茶の物語を紐解きます。

—まずVAISAを立ち上げた経緯を教えてください。

郡司さん:当時、「人と人が向かい合って、きちんと対話する時間が減っているな」と感じていました。平日は満員電車で通勤して、遅くまで働いて、もう対話どころじゃない。休日にせっかく誰かと会っても、お互いスマホを見ながら話していたりしますよね。人生には限りがあるのに、“人との対話”や“くつろぎ”に充てられる時間が全然ない。それって「価値ある時間」を大切にできていないようで、なんだかさみしいなって。

ちょうどその頃、「お茶しない?」って誘い文句も聞かなくなったなと思ったんです。かつて日本茶は、私たちの生活の一部でした。でも今はそれが薄れている。一体なぜだろうと疑問が浮かびました。

その答えを探して日本茶の歴史を遡っていたとき、売茶翁の存在を知ったんです。彼は煎茶道を通じて、日本各地に禅の教えを広めていました。じゃあ僕たちも彼に倣って《日本茶の素晴らしさとともに『価値ある時間を大切に』という思いを伝えよう》と決意し、日本茶ブランド「VAISA」を立ち上げました。この名前も売茶翁からとったものです。

—売茶翁の煎茶道は、千利休の茶道とはまた別物なんですか?

郡司さん:お客様を茶室に招いて、掛け軸や器を愛でながらお抹茶を楽しんでもらうのが茶道。煎茶道は日本茶をもっと気軽に、自由に楽しむものです。茶道にはお作法もありますから、極端に言えば煎茶道とは真逆の考え方ですね。

僕たちには日本に根強く残る煎茶道を再びカルチャーとして世の中に広めたいという思いもあります。そのため“現代人に合ったフランクな日本茶の楽しみ方”を提案しています。

VAISAのオリジナルキャラクター・バイサくん

—フランクさがパッケージにも表れているなど感じました。従来の日本茶のイメージとは全く違う、おしゃれでユーモラスなデザインですよね。

郡司さん:VAISAの商品には、“バイサくん”と“マイコさん”が各地を旅する様子が描かれています。

バイサくんは売茶翁を、マイコさんは舞妓を模している

今や舞妓さんは「花街の芸者さん」のイメージですが、そのルーツはお茶屋さんで働いていた女の子だと言われています。お茶という共通点から、マイコさんをヒロインに抜擢しました。

この2人、恋人同士に見えてまだ付き合ってないんですよ。これから付き合う(笑) 実はそんな物語も隠れているんです。

僕はVAISAのプロジェクトそのものが「現代の売茶翁として『価値ある時間を大切に』というテーマを伝える」という、ひとつの大きな物語だと思っています。そのため2人の裏設定を作ったり、ジャパニーズジョークを盛り込んだりして、パッケージにも物語を忍び込ませています。

おかげさまで若い世代からも好評で、アパレルブランドとコラボイベントを行なったり、パッケージを模したTシャツも販売しました。

—裏面がハガキになっていてそのまま送れるのも驚きました!

郡司さん:売茶翁は屋台を引いて各地を巡り、人々に禅の教えを説きながら日本茶を振舞っていました。僕たちも当初は屋台を作りたかったんですが、いかんせんお金がかかる…(笑)

屋台がなくともVAISAのお茶が人から人へと渡っていくにはどうしたらいいのか。考えを重ねた結果、ハガキパッケージ「茶ハガキ」が生まれました。

—コロナ禍で対面のコミュニケーションが困難ないま、会いたいけど会えない家族や友人に送るのも良いですね。ステイホーム中の楽しみにもなるなと感じました。

郡司さん:そうですね。実際に以前と比べて問い合わせも増加しました。

コロナ禍を通して、日本人のライフスタイルだけでなく、考え方も大きく変化していると実感します。みんなの意識が“より本質的なところ”に向けられる時代になったな、と。

少し前は「サードプレイス(カフェや公園など、自宅以外のリラックスできる場所)」で過ごす時間を充実させようという動きがありました。でもコロナウイルスの影響で外出自粛が呼びかけられ、今はみんなの視線が「ファーストプレイス(自宅や家庭)」に向けられています。自粛期間中、おうち時間を充実させるために頭を悩ませた方も少なくありません。ステイホーム中の過ごし方を模索することは、本来自分が大切にしていた時間やモノを再認識し、本質に立ち返るキッカケにもなったのではないでしょうか。

昨年発売された「STAY HOME COLLECTION」も送れる茶ハガキタイプ

僕は問い合わせが増えたのも「家でお茶を飲むひとときこそ大切にすべき時間だ」と気づいた方が多いからじゃないかと思うんです。ステイホーム中、日本茶を飲みながら自分と向き合う時間を過ごすために購入される方もいると思いますよ。

—たしかに。1人でリラックスしながら思いを巡らすのに、お茶を飲むのは有効な手段ですね。

郡司さん:今まで当たり前だったことが、明日変わってもおかしくない世の中になりましたから。働き方や生活、時代の変化に戸惑う場面も多々あります。

そんな時に自分の本質に立ち返る手段として、お茶を飲む時間が必要とされていると感じますね。これは日本茶の文化がずっと残り続けている理由のひとつかもしれません。

—次は商品について詳しく教えてください。VAISAは茶葉の産地や種類のバリエーションが豊富なのも魅力的ですね。

郡司さん:さまざまな地域の緑茶の他に、玄米茶やほうじ茶、金粉入りのお茶もあります。

金粉入り狭山茶は「2021年 NEW YAER & STAY HOME COLLECTION」として発売。年賀状として送れる。

VAISAの第一号は、福岡県のうきは茶です。このお茶は旨味成分も強く、特徴的な甘みと深いコクがあります。一般的な日本茶に慣れている方にもきっと満足していただけると思いました。

他には、静岡県や茨城県、埼玉県の茶葉を扱っています。今は日本の北部地域のお茶を発売しようと動いているところです。

「STANDARD GREEN TEA」は香り豊かな静岡県産の煎茶。

ゆくゆくは47都道府県のお茶を網羅したいんですよ。気候風土によって茶葉が採れない地域もありますが、黒豆茶やそば茶など、その地に根ざしたお茶はある。いつか日本茶の全国地図が作れたら面白いですね。

—VAISAはティーバッグよりも茶葉の商品が多いですよね。これは「急須でお茶を淹れる時間」も楽しんでほしいという思いからでしょうか?

郡司さん:まさにその通りです。日本でもサードウェーブコーヒーが流行して、ハンドドリップに価値を感じる人が沢山います。それと同様に、茶葉から日本茶を淹れる時間ももっと評価されるべきだと思うんです。

急須に茶葉を入れて湯を注ぎ、ゆっくりと蒸らす。

茶葉が開いて、だんだんと香りが立ちのぼる。

1杯のお茶ができるまでの過程も「価値ある時間」のひとつだと気付いていただけたらうれしいです。

茶葉を推奨するのにはもうひとつ理由があります。

淹れ方や抽出時間による絶妙な味の違いを楽しんでいただきたいんです。

日本茶は味のグラデーションがはっきりしているのも魅力です。淹れる湯温がほんの1度違うだけでも風味が全然違う。急須で淹れると、旨み・渋み・香りが折り重なった繊細な味の変化が際立ちます。ぜひ一度試してほしいですね。

—これからの季節にオススメの飲み方はありますか?

郡司さん:暑い時期は水出しの冷茶もいいですね。ミネラルウォーターのペットボトルに茶葉を入れて、1、2日冷蔵庫に入れておくと結構良い感じに出ますよ。あとはアイスコーヒーみたいに、氷がたくさん入ったグラスに急須で淹れた濃いめの日本茶を注いでも美味しい。

とはいえ日本茶の飲み方にルールはないので、各々が自由に楽しんでいただければいいかなと思います。

—VAISAのお茶は「自由に楽しむ」というのも大切なポイントなんですね。

郡司さん:日常生活でフランクに日本茶を飲むのに、堅苦しい決まりごとはありません。各々が美味しいと感じる淹れ方、飲み方が正解なんです。

極端ではありますが、「日本茶」と「人生」って同じだと思うんです。

「こういう人生を生きなきゃいけない」が無いように、日本茶にも絶対的なルールはない。これは僕たちが目指す売茶翁の世界観でもあります。

VAISAの立ち上げから関わるメンバー。左から、大門佑輔(だいもん・ゆうすけ)さん、郡司淳史(ぐんじ・あきふみ)さん、苅込宗幸(かりこみ・ひろゆき)さん

実はいま、海外展開の話も進んでいるんです。日本茶を飲んだことがない外国の方に、淹れ方や飲み方をどう伝えようか考えているところです。

VAISAを購入される方の人種や国籍が変わっても、僕たちの「日本茶を自由に楽しんでほしい」という思いは変わりません。日本茶に馴染みがないからこそ、新しい楽しみ方を見つけてくれるんじゃないかなと期待しています。

もしかしたら、日本人がまだ知らない驚きの飲み方が誕生する日も近いかもしれませんよ。

(了)

取材・文 佐藤優奈


VAISA  http://vaisa.jp/

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