Walter Van Beirendonck × Dirk Van Saene:鬼のような面をして、仏のような心を持つ男(鬼面仏心)(Endless Romances long for High-End Clothes by kozukario)
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Walter Van Beirendonck × Dirk Van Saene:鬼のような面をして、仏のような心を持つ男(鬼面仏心)(Endless Romances long for High-End Clothes by kozukario)

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いささか漢字を愛するナショナリスト的発言かもしれないが、私にとって「青」という色のイメージは「静寂」である。

「静」という漢字。部首の「青」にはおさまる、すみきるという意味があり、争いがおさまって澄み切った状態が静か、ということらしい。昔、私の大好きな小説家二宮敦人がツイートしているのを見た(無論、彼の作品についても全く静ではないが)。

静寂の「静」に「青」が含まれているから「青」という色のイメージが「静寂」となるのだろう。静寂のイメージが青であるということを真の命題だと解釈しているから、その逆である青のイメージが静寂というのも後件肯定して真だと誤謬している。論理的に妥当でない。

そして私は、これが論理的に妥当でないということ、そうであるとは限らないということを思い知ることになる。

青が五月蠅いこともあるし、怒っているのに微笑むこともある

WITBLITZ by Walter Van Beirendonck SUMMER 2020
Courtesy of Walter Van Beirendonck

五月蠅い(うるさい)青を見た。

表参道のGYREに、TRADING MUSEUM COMME des GARÇONSがある。川久保玲によると、TRADING MUSEUM COMME des GARÇONSのテーマは「過去の価値あるもの、今のもので、且つ他に無いもの、洋服に限らずアートや美しいもの、それらをTRADEする場」である。

眩し過ぎる白を基調とした店内には、円柱型のオブジェが多数並んでいる。間仕切りのような役割を果たすこの円柱に足を踏み入れれば、そこに展示されている一つのブランドの世界に没入することが出来る。

Trading Museum CdG Tokyo
instagram on @waltervanbeirendonckofficial

私が踏み入れたその円柱に五月蠅い青はあった。

青地で、必要以上にオーバーサイズなTシャツ。肩はずっしりと落ち、襟には彩度をMAXまで上げられた赤が射されていてショッキングだった。何体かのロボットか、あるいは地球外生命体が腹部(あるいは腰部)にプリントされていたが、上からチュールが被せられているせいではっきりと見えない。輪郭を捉えられないために視点が合わないように感じるのである。見れば誰もが乱視になってしまう。

頭の中で流れるEiffel 65の“Blue (Da Ba Dee) [Gabry Ponte Ice Pop Mix]”(1998)がお似合いすぎる。ああ、そういえばこっちの青も全く静ではなかった。

WitblitZ s/s 2020 Walter Van Beirendonck – artwork by Jonty Mellmann
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襟と同じ色で胸元に‘Witblitz’と書かれたその青はWalter Van Beirendonck(ウォルター・ヴァン・ベイレンドンク)の作品だった。

Walter Van Beirendonck SUMMER 2020は、エイリアンらのビンテージ・レトロなルックと、キンキーなスポーツウェアのデラックスなムードとの間のエッジにデザインされている。このコレクションは、ウォルターによって‘Witblitz Alien Vintage’と名付けられている。‘Witblitz’とは「白い照明」を意味するらしい。TRADING MUSEUM COMME des GARÇONSに置かれるに相応しい作品だ。

WOEST by Walter Van Beirendonck WINTER 2016/2017
Courtesy of Walter Van Beirendonck

Walter Van Beirendonckはいつも五月蠅い。彼のショーを鑑賞することは、五感への攻撃と言えるであろう。

例えばウォルターは自身のWINTER 2016/2017コレクションを、フラマン語で「激怒」を意味する‘WOEST’と名付けた。

このコレクションのショーでは、ウォルターと同郷の旧友であるインゲ・グロニャール(Inge Grognard)がメイクを担当。モデルの顔に一連のグラフィックイラストを描いた。

‘WOEST’において、ウォルターが「激怒」を表すのに使ったものはあの小さなチェーンとそこについている小さなチャームだけだった。それを受けたグロニャールは、ウォルターについて次のように説明している。

PHOTOGRAPHY:Julien T Hamon

「他のデザイナーは、コレクションのメイクアップルックにインスピレーションを与えるために、音楽やテキスタイルを持ってくるかもしれませんが、ウォルターはいつもとても明確です。彼は自分のコレクションで何をしようとしているのか、どこに行きたいのか、何を言いたいのかを明確に把握しています」

‘WOEST’のショーの後、ウォルターは「とても甘いテーマととても攻撃的なテーマを組み合わせていました。小さなウサギやテディベアがあったかと思えば、チェーンソーやストリップソーで切り裂かれている」と言及した。

大男Walter Van Beirendonckと、ストーリーテラーとしての作品

Tokyo
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スローガンやメッセージ(時には秘密のメッセージも)を伝えることは、Walter Van Beirendonkの美学に不可欠な要素である。社会、政治、大量消費主義、文化、美、セクシュアリティに対するウォルターの声は、しばしばニットウェアやテーラリングに大胆な色でプリントされ、ドラマチックな効果を齎す。

ウォルターは、ファッションデザイナーこそ、世界に張り巡らされた境界線を変え、世界に向けて声明を出すことを試みるべきだと信じている。

このポストモダンの天才は、アート、音楽、テクノロジー、サイエンスフィクションなどさまざまな要素を、自身が生み出す過激なコレクションに注ぎ込んでいるのだ。

Nice memories :visiting Gitte Meldgaard a while ago in LA photo by Ronald Stoops
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ウォルターは、両手の指に大きな指輪をはめ、濃いひげを生やし、鮮やかなセーターを着て、派手な印象を与える。

このド派手なデザイナーの作品は今、そのスタイリングをスウェットパンツやオーバーサイズのパーカーからアバンギャルドへと転向させた若い世代のヒップホップ・アーティストに人気がある。女王ニッキー・ミナージュ(Niki Minaj)は彼のレギンスを履き、ラッパーのヤング・サグ(Young Thug)は透明なノースリーブのトップスを着て、「Warning Explicit Beauty」というメッセージを掲げた撮影を行った。

「先日もラッパーのスウェイ・リー(Swae Lee)から、10作ものアイテムの依頼がありました。でも、全くタイプの違う歌手のミカ(Mika)も私の服を着ていますし、中国のポップスターもいます」

Young Thug in ‘Warning Explicit Beauty’-dress Photography Harley Weir, styling Robbie Spencer
Courtesy of Walter Van Beirendonck

今、ファッションにおける創造性は過小評価されていると言えよう。

美しさや優雅さ、洗練された雰囲気は、昔からある概念らしい。このようなピュアな美しさは、パーカー、スウェット、Tシャツ、スニーカーといったサブカルチャーへと道を開いた。しかし、誰もがこのストリートウェアのトレンドに飛びつくわけではない。Walter Van Beirendonckの顧客はWalter Van Beirendonckに忠誠的である。Walter Van Beirendonckというブランドは、歴史あるブティックでもあり、クールで新しいブランドでもあり、時にはビジネスとアートギャラリーを組み合わせた複合施設のようでもある。そうやって唯一無二の価値を確立してきた。

そして、ウォルターの作品を一見して「彼はスーパーヒーローに夢中なんだ」と思う人が多くいるらしい。サブカルチャーやストリートウェアが悪いわけではない。しかし実際の彼はそれらに夢中、というわけでもない。彼の子供時代まで遡ればそれがわかる。

リトル・ウォルターは、みんなが大好きなマッチョなコミックには全く興味がなかった。

小さなWalter Van Beirendonck、大きなDirk Van Saene

A while ago………Innovation Antwerpen
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1957年2月4日、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクはベルギーのブレヒトに生まれた。両親はガレージで燃料ポンプを作っていた。子供の頃、彼はアントウェルペン州にある都市リールの寄宿学校に通っていた。サッカーをするのが嫌いで、絵を描くのが好きだった。12歳になると、部屋で人形を使って着せ替え遊びをしていたそうだ。しかし、リトル・ウォルターをファッションに目覚めさせたのは着せ替え遊びではない。

デビッド・ボウイ(David Bowie)。

主にイギリスで1970年代前半に流行したグラムロック(glam rock)の騎手である。奇抜なメイクに煌びやかなファッション、SF映画や小説をモデルにしたような懐古趣味的な衣装。まさに彼は‘glamorous’(グラマラス)の具現であり象徴であった。

With my sweet sister back in 1964
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ウォルター青年は、若き日のデビッド・ボウイの音楽とルックスに憧れていた。そしてある日、アントワープ王立芸術アカデミーの生徒募集要項の記事を偶然目にする。1976年、ファッションに思いを馳せながら、青年はその門を潜った。

アントワープ王立芸術アカデミーに入学した頃、ウォルターはジュエリーの道へ進む事を考えていた。芸術との距離を詰めた若き彼は好奇心旺盛で、建築にも興味があった。子供の頃から大好きな、絵を描くことを仕事にするのもいいな。

Me and my sweet bulterrier Sado ,in 1982,wearing look from my first collection SADO
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しかし誰もがご存じの通り、彼はデザイナーになった。2年生の時、卒業生のファッションショーを見て、ファッションを決心したという。「私の服は常に非常にパーソナルなものであり、私のメッセージは時代が変わっても変わらいないと思います」と大人になったウォルターは話す。

20歳の彼に、ファッションを生涯のものとする決心をさせた卒業生のファッションショー。その卒業生にダーク・ヴァン・セーヌ(Dirk Van Saene)がいる。彼は、後にウォルターの夫となる。

Photo By Philippe Costes/WWD Archive
(前から2番目がダーク・ヴァン・セーヌ、後ろから2番目がウォルター・ヴァン・ベイレンドンク)

ダーク・ヴァン・セーヌ(Dirk Van Saene)と出会ったウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)は、アントワープ王立芸術アカデミーを卒業してから3年後、自分の名を冠したラインを立ち上げた。

1986年、ロンドン・コレクションにアントワープ王立芸術アカデミー出身の仲間5人、ダーク・ビッケンバーグ(Dirk Bikkembergs)、アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)、ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)、マリナ・イー(Marina Yee)、そしてダーク・ヴァン・セーヌ(Dirk Van Saene)と共に出展し、独特の美意識とコンセプチュアルなアイデアによって絶大な評価を受ける。6人は自らを「アントワープの6人」と称し、興奮と創造の場としてアントワープを地図に載せた。英国のプレスはこぞって彼らを「アントワープ・シックス」と呼んだ。

そうしてウォルター・ヴァン・ベイレンドンクは、先鋭的なファッションシーンに欠かせないモードな存在となっていった。

“生涯”という時間がゆっくり、たっぷりと流れるふたりの世界

Walter Van Beirendonck en Dirk Van Saene. 
photography by Ronald Stoops

若くしてアントワープ王立芸術アカデミーで出会い、パートナーとなったウォルター・ヴァン・ベイレンドンクとダーク・ヴァン・セーヌは、40年以上に渡って昵懇の関係にある。

数年前、ふたりは都会の喧騒を手放し、ベルギーの田舎町、ゾントホーフェンにある、広い庭付きで築100年の元公証人の家を購入した。

庭師が葉刈り機を押していたり、ダウンジャケットを着たお年寄りが電動アシスト自転車で通り過ぎたり。ゾントホーフェンでは、朝がゆっくりと進行する。

Home!!!photo Dirk Van Saene
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2018年に結婚したふたりのこの自宅の1階には、独立し隣り合う、2つの小さな部屋がある。

ファッションとアートが出会うダークの部屋には糸巻きが並ぶ。彼の新しいコレクションのドレス、その影には美術書の膨大なライブラリーがある。

ウォルターの部屋には、漫画、コミック・ストリップ、おもちゃなどが所狭しと並んでいる。ウォルターの部屋の床にはアートブックのタワーがある。ウォルターはこの部屋に来て、頭の中で創作をする。だからこの部屋に拘らず、彼はどこでも仕事ができる。あらゆる刺激が彼の想像力を掻き立てる。そして彼はそれを紙に描く。

Collecting toys has been always my joy and passion , a diversity of characters , colors and types and EYES are important!KWADE TIJGER is protecting them ALL walter
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火にかけられたヤカンが笛を吹き始めると、ダークはその音に釣られて自然にキッチンへ向かう。ダークのお気に入りは、湯気の立ったカフェティエール。コーヒーは昆虫をモチーフにした繊細な白いカップに注がれ、磁器のミルクジャグは犬の頭をしている。

「喧騒から守られたこの地に住めることを幸せに思います」

ウォルターは「ここでは邪魔されず、効率的に仕事ができます」と語る。インターネットのおかげで、彼らは愛しい自宅でクリエイティブな仕事に集中することができる。

DIRK VAN SAENE photographed in his studio 16.01.2021 opens exhibition ‘STORIES OF HOPE AND DESPAIR’ in galery SOFIE VAN DE VELDE Antwerpen
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ふたりの生活の場であり仕事の場でもあるここは、スーパーヒーローや宇宙人、セックストイが登場するウォルターの創作世界とは、これ以上ないほどのコントラストを見せている。

淡い景色を増長させる、控えめなデザインスタイルを持つダーク。彼の叔父は画家だった。

叔父を尊敬していた18歳のダークは、絵を描くことを続けるか、ファッションを追及するかで迷っていた。約40年の時を経て、今の彼はその両方を同時に叶えている。デザインをしながら絵も描いているようだが、それは服飾作品の機能としてのみ。絵はスキャンされ、シルクにプリントされる。つまり絵を描くことはデザインすることであり、デザインすることは絵を描くことでもある。

あなたを虜にした人、変える人、支える人、愛する人

ID magazine -me with my dog Sado King Kong Kooks
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「ふたりの生活には、とにかくアートが重要です」とダークは言う。

そして例の如く芸術家にはミューズが必要不可欠。ダークにとってのそれはウォルターで、ウォルターにとってのそれはダークである。それぞれのデザインスタイルはパートナーとは大きく異なる。それでも1998年、当時まだ恋人たちだったふたりは力を合わせ、アントワープの中心部にWalterというショップを設立した。

1998年にアントワープの中心部にオープンしたWalterは、家具やエッジの効いたファッションブランドを扱うユニークなスペースだった。しかし、このようにどんなに相互理解のある仲であっても、またどんなに愛し合っていても、ファッションは「肥大したエゴの呪われた土地」であるから、2人のデザイナーが一緒に暮らすことでお互いに首を絞めることもあるだろう。ウォルターはこれについて「たくさんあります」と認める。

「〆切、約束、プレッシャーなど、すべてが倍になっています」

comme crâne, comme culte at DANCE PERFORMANCE AT WALTER-STORE
Christian Rizzo & L’Association Fragile

ファッションの分野では、ふたりが一緒にコレクションを発表したことはない。ウォルターは長らくメンズウェアを主に手がけ、ダークはウィメンズファッションを担当してきた。スタイルも全く違う。

Walter Van Beirendonckの長年の支援者であるファッション評論家のティム・ブランクス(Tim Blanks)は「ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクの遺産は最終的には川久保玲と似たようなものになると思います。彼は正統性を覆し、メンズウェアの本質(例えば、上質なテーラリング)を、色やプリント、驚くべき技術、絶対的な自由の追求によって打ち砕くのです」と述べている。

Dirk Van Saene fitting for the Wonderland show and looking fantastic!Friends Forever!
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連名のコレクションは未発表であっても、ダークがウォルターの仕事に深く関わっていることは確か。学生時代から、ウォルターはダークにフィネスとエレガンスについて多くを学んでいる。

そして今も、ダークはショーの制作やモデルとしてウォルターのコレクションを手伝ったり、建設的な意見を述べたりしているという。

「自分の意見を言うことはありますよ。彼のショーのキャスティングにも携わっています。去年の5月にサンフランシスコに招待されて、彼の10年春夏コレクションを披露したのですが、とても楽しかったです。多くのファンが来ていて、私たちはとても歓迎されました。私たちはそういうことを一緒にすることが好きです」

エレガントとアヴァンギャルドの交差点

Dirk Van Saene spring—summer 1999.
Courtesy of Dirk Van Saene

ダークのファッションセンスは、より落ち着いていてエレガントであると普通なら感じる。その美しさが故、デコンストラクションが流行した1990年代半ば、ダークがやっていたエレガントなデザインは世間の流行に逆らっているように映っていた。しかしダークはモードをしているつもりだったらしい。

「私の服を評するとき、多くの人がクチュール感について語ると思いますが、実は私はそれでいいと思っています」とジョークを交えて語る。

「私がやっていることを理解できなかったのです。私のやっていることは、ある意味では文脈から外れていましたが、同時に私自身の好みにも合致していました。私は流行に反発し、正反対のことをしたかったのです」

純なアヴァンギャルドが流行していた時代、美しく繊細でクラシカルなデザインを生地に吹き込み続けたダーク・ヴァン・セーヌこそ、アヴァンギャルドな思想の持ち主なのかもしれない。例えば、制服のスカートをスケバンのようにロングにするのが主流である中、たったひとり裾を切ってミニにしている方がいかつい。きっと、だからこそ、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクにダーク・ヴァン・セーヌがお似合いなのである。

SEX TOY Walter Van Beirendonck ss2021 MIRROR bomber in NUMERO BERLIN photographed by SIMON THISELTON styling by NICK ROYAL
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対するウォルターの服には、都会的で直接的な魅力があり、それは彼が80年代から取り組んで洗練してきたもの。

色彩、幾何学模様、実用性はすべて彼の語彙の一部である。彼の服は人を笑顔にするが、同時に哲学させられる。ウォルターは政治的、社会的、性的、文化的な声明を叫ぶ自身のコレクションにおいて、エリート主義とは対照的な包括的姿勢をアピールをしている。

彼の特異な、しばしば漫画的なコレクションおよびその中の着用が困難な作品は、今日のファッション市場においてはスーパーレアな提案であり、企業や商業上の懸念から完全に解放された、完全な創造的自由の結果である。彼と彼の作品は40年近くに渡って「知っている人は知っている」という品質を維持している。ウォルターは現在活躍しているほとんど全ての重鎮デザイナーとは異なり、自分のブランドを完全にコントロールし、完全に独立している。そしてそれはダークも同じ。自分のスタイルを完全にコントロールし、完全に独立している。

Pikant / amazing beautiful flowers
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2012年にウォルターのショップが倒産した時、そのプロジェクトに多くの投資をしていた彼は相当に落ち込んだという。魔女狩りのような無配慮の報道も彼を苦しめた。当時のウォルターはとても深くまで沈んでしまっていた。ウォルターは当時を振り返り眺める時「ダークがあの場にいたのは幸運だった」と話す。ダークは物事をよりシンプルに整理することができる。ウォルターの初心な恋から自然に生まれ、育まれたふたりの関係は、年々緊密になっているようだ。

このカップルは、それぞれが試行錯誤しながら自分のことをやっていて、それぞれに浮き沈みがある。でもいつも共通の場所で出会う。アントワープ王立芸術アカデミーも、ゾントホーフェンの自宅も、アヴァンギャルドな思想も、服も…

まるで世界がふたりを中心にして回っているかのように、全てがふたりの場所となる。

たとえ世界を救えなくたって有名になれなくたって、君を守る為に生きられたら後悔しないだろう

Dirk Van Saene (links) en Walter Van Beirendonck. 
© J. Van Belle – WBI

そのデザインスタイルのように、ウォルターとダークは、性格や気質が正反対なのである。効率主義的でとても有能なダークは、ウォルターにとって創作活動やビジネスについての完璧な相談相手であるだけでなく、完璧な夫でもあるそうだ。家内における全てをダークがオーガナイズしている。優しいカフェティエールを淹れ、健康的な料理を作る。

ウォルターがショッキングなルックスを持ち、ソーシャルメディアでより積極的に活動していることで、ダークはより内向的に見えるかもしれない。

しかし、実際はどうだろう。

見た目が外向的なウォルターの中身は、深すぎるほど内向的なのだ。気にしいで、長い間何かを噛みしめては、これでいいのかと疑ってしまう癖がある。見知らぬ人が近づいてきて個人的な質問をされるのが怖いから、未知の環境に足を踏み入れるのが苦手で努力が必要。

それをジョークでほぐし、強く支えるのはいつも夫であるダークなのだ。内側に対応する外側をすっかりトランスしたようなふたり。ウォルターの大人しくて可愛い性格にはダークの服が良く似合うし、その逆も同じだろう。

Dirk Van Saene x Walter Van Beirendonck celebrating today 42 years of love , it all started 42 years ago at a concert from Blondie in Paradiso Amsterdam ❤️ photo Ronald Stoops
instagram on @waltervanbeirendonckofficial

ウォルターがもしもファッションの仕事をしていなかったら、彼は今何をしていただろうか。

ウォルターはいつものように頬を赤らめて答える。

「”昔から動物が好きだったから、動物園で働いていたかもしれないし、花に関係する仕事をしていたかもしれない。ポルノも…」

もちろん監督したいはずだ。

鬼面仏心(きめんぶっしん)とは、表面は怖そうだが、内心はとてもやさしいこと。また、そのような人を指す。要は、Walter Van Beirendonck、ということ。


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