私にとって渋谷の「DIESEL ART GALLERY」は、単なる展示スペース以上の場所。
振り返れば、2017年に開催されたロジャー・ バレンとアスガー・カールセンによる個展 「NO JOKE」。ポスターと、10年間報道写真家をやった後にアーティストになったとかいうアスガー・カールセンのプロフィールが気に入り訪れてみた。
これが、私がこのギャラリーに通い始めるきっかけだった。
その後、2019年のJUN INAGAWAによる世界初個展「魔法少女DESTROYERS(萌)」など、常に早く、常にエッジの効いたカルチャーを提示してくれるこの場所に、私は信頼を置きすぎている。
今回、久しぶりに外に出て足を運んだのは、ギャラリー初となる書籍をテーマにした企画展「DIESEL ART GALLERY BOOK MARKET」!
そしてもう一つの理由は、ギャラリー・ディレクターのmimuroさんに、いつか会ってみたいという願いがあったから。それが、この「BOOK MARKET」という最高の舞台で叶うことになった。
東京の「感性」が凝縮された7つのブース
あの白い壁の会場が見えた瞬間、「キタ―――(゚∀゚)―――― !!」と思った。DIESEL ART GALLERYにしかない、あの空気感。
音楽、アート、ファッション、サブカルチャーがディーゼルらしさと交差する世界が広がっている。
ただの「本屋の集まり」ではない・・・!各ブックストアと出版社がそれぞれ独自の視点でキュレーションした本たちと対面できる場所だ。
やっと会えた「古書ドリス」
なかでも胸が熱くなったのは、ずっと行きたいと願っていた古書ドリスのブース。
台東区・鶯谷にある幻想系古本屋。耽美・幻想をテーマに、世紀末芸術、ラファエル前派、唯美主義、ダダ・シュルレアリスム、澁澤龍彦とその周辺の文化、球体関節人形、ゴシックカルチャー、エロティシズムといったテーマを根幹に据えている。
私の美意識の根底には、ティム・バートンの世界観や、『ダレン・シャン』のようなダークファンタジーの空気感がある。ドリスが扱う幻想絵画や文学といった稀少なラインナップは、まさに私の「好き」の原点に触れるような感覚だった。
歴史の重みに涙がちょちょぎれた「ボヘミアンズ・ギルド」
そして、思わず足が止まり、止まるどころかもうしゃがんで覗き込んでしまったのがボヘミアンズ・ギルドのショーケース。
創業から百年以上の歴史を持つ夏目書房が手掛ける、神保町の古書店。そこには、夏目漱石の『それから』の初版本が鎮座していた。
刊行年は1910年・・・・100年以上前の人々が手に取ったそのままの姿。本が持つ「物質としての圧倒的な力」に言葉を失った。涙出そう。
店舗1階の"本の森"をイメージした空間には美術書や写真集などのアート関連書籍が並び、2階には稀覯本や自筆原稿、絵画、版画といった貴重な作品が揃うらしい。
音楽とサブカルが交差する「Cha Cha Cha Books」
東京都福生市にあるブック&カフェ。音楽、サブカルチャー、文学、美術、映画、マンガなどの古本と一部新刊書に加え、レコード、カセットテープまで取り扱う。
ブースには黄色いクレートに無造作に積まれたZINE。福生の店舗はキューバサンドやスイーツも楽しめるエキゾチックな空間だそうで、まさに「ラウンジ」としての本屋を体現している。
整然とした書店では出会えない、偶然の発見がありそうな予感。
写真集との出会いを約束する「Flotsam Books」
2010年にオンラインストアとしてスタートし、2020年に東京・代田橋に実店舗をオープン。写真集を中心に新刊、古書、洋書、和書を問わず独自の視点でセレクト。気取らない姿勢で統一された店内は、訪れるたびに新たな出会いが待っているとか。
店主のKobayashiさんのInstagramのプロフィールには「何も考えません。何も。」とある。mimuroさん曰く素敵な方とのことで、この言葉通り、理屈ではなく直感で本を選ぶ楽しさを体現しているような人なのかも。
店頭では定期的に作家の展示も行われ、ファンとの交流の場にもなっているらしい。
カウンターカルチャーの聖地「Flying Books」
2003年創業、渋谷駅から徒歩数分の場所に構える伝説的な古書店。
ヴィンテージ雑誌、絶版写真集、ビート&カウンターカルチャーなど、国内外のマニアックな古書約1万冊が並ぶ店内で、カウンターでワインやコーヒーを飲むこともできる(何度も行ったことある)。不定期でポエトリー・リーディングやライブも開催(これは知らなかった、いいね)。
アメリカ、ヨーロッパに独自のコネクションを持ち、写真展の制作やコーディネートも手掛ける。
クリエイティブの最前線を日本から世界へ「+81」
1997年創刊の東京発ヴィジュアル・マガジン。存在は知っていたが、はじめまして!
グラフィック・デザインを中心に、ファッション、写真、映像、音楽など、各号異なるテーマのもと世界中のクリエイティブ・シーンを取材。エディトリアル・デザインは多くのクリエイターから高い支持を集め、誌面は全て日英バイリンガル表記で世界16カ国で販売されている激スゴ本。
今回のBOOK MARKETではバックナンバーも用意されていた。
世界のクリエイターひとりひとりを一冊一冊に「GASBOOK」
1996年に開始されたプロジェクトGASBOOK。「GASBOOK33 YOSHIROTTEN」で知っており、気になっていた。
初期にはTシャツ、DVDなどを用いて世界各国のアーティストの作品をオリジナルパッケージで発表。
2002年の「GASBOOK 01 GROOVISIONS」以降、毎号1組(もしくは2組)のクリエイターをフィーチャーするフォーマットへ移行し、37号まで刊行。マイク・ミルズ、高橋盾、MADSAKI、ジョナサン・ザワダ、吉田ユニなど、様々なジャンルのクリエイターを紹介してきた。
写真集専門出版社「SUPER LABO」
全部の本のビジュが非常に良い。美しい。
2009年にホウキヤスノリによって設立された、東京を拠点とする写真集専門出版社。
ペトラ・コリンズやエド・テンプルトン、ジム・ゴールドバーグなど世界中の著名アーティストがプロジェクトに参加。現在、東京・神保町にコンセプトストア「SUPER LABO STORE TOKYO」を運営し、海外アーティストを招いた展覧会やイベントも随時開催しているとか。
運命3選
展示されている数多くの本の中から、今の私が「これだ」と感じた3冊を持ち帰った。考えるより先に、購入!
『+81 Vol.96』(DD Wave)
まず手にしたのは、世界16カ国で販売されているクリエイティブ・マガジン『+81(プラスエイティワン)』の最新号。DD Wave社が手掛けるこの雑誌のことは以前から知っていたが、mimuroさんから最新刊がブックデザインの特集だと聞いた瞬間、購入決定。
だって展示とぴったりすぎるじゃん。
デジタルで情報が瞬時に消費される現代において、あえて「物体としての本」を作る意義や、そのデザインの可能性にスポットを当てている。
今回の「BOOK MARKET」という展示そのものにリンクする内容。美しい装丁、そしてペラペラとどこを眺めても美しいデザイン。本を持つ喜びが込み上げてきてしまい、運命を感じ、購入。
『うそ日誌』水島小緒里(USOPPOI BOOKS)
Flying Booksのブースで出会った、水島小緒里(Saori Mizushima)さんの『うそ日誌』。
USOPPOI BOOKSから出版されている一冊で、日記形式で綴られる「嘘っぽい日々」がまとめられている。
シュルレアリスムとかわいいものが好きな私には、この世界観が完璧に刺さった。日常と嘘が溶け合う、少し不思議で愛おしい感覚。柔らかくて不穏な「かわいさ」に運命を感じてしまい、購入。
『THE CITY IS A FLOWER』Adam Turnbull
最後の一冊は、Flotsam Booksのブースで見つけた、アダム・ターンブルの写真集。正直に言うと、THE CITY IS A FLOWERもアダム・ターンブルも全く知らなかった。けれど、その表紙がどタイプすぎた。
ゴミ箱に入った造花。そして、ボロボロに傷ついているのに、陽光を浴びて真っ赤に輝くカラーコーン。
「綺麗だけど汚い」「汚いけど綺麗」的な二項対立が大好きな私にとって、この表紙はあまりにも完璧だった。シェイクスピアの『マクベス』の有名なセリフ「きれいは汚い、汚いはきれい(Fair is foul, and foul is fair)」が、一枚の写真として目の前に現れたような感覚。
そしてここで思い出すkobayashiさんのInstagramのプロフィールの「何も考えません。何も。」
どうこう言ったって結局運命なんだ。購入GO。
みんなも行ってみて!
2017年にアスガー・カールセンとロジャー・バレンの展示を初めて見たときから、私の感性はここで刺激を受け続けてきた。今回のBOOK MARKETも、mimuroさんのキュレーションを通じて、新しい発見と懐かしい情熱を同時に思い出させてくれる、素晴らしい体験だった。
久しぶりの外出は、今の自分に必要な言葉やビジュアルを再確認する時間になりまくった。物理的な「本」という存在。いろんな人の熱量が凝縮された3冊を持ち帰る帰り道。3冊の重みでスタッフさんがショッパーを二重にしてくれるほどだったのに、なぜか足取りは軽やかだった。これだから、本を買うことはやめられない。
若者、スマホばっか見てないで物理本を見に行くのだ!運命がそこにある!
kozukarioの購入リスト
・『+81 Vol.96』ブックデザイナー特集 (DD Wave)
・『うそ日誌』水島小緒里 (USOPPOI BOOKS)
・『THE CITY IS A FLOWER』Adam Turnbull
DIESEL ART GALLERY BOOK MARKET
会期:2026年1月23日(金)〜4月15日(水)
会場:DIESEL ART GALLERY(東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti DIESEL SHIBUYA B1F)
開館時間:11:30-20:00
入場料:無料
参加書店:ボヘミアンズ・ギルド (Bohemian's Guild)/Cha Cha Cha Books/古書ドリス (Doris)/Flotsam Books/Flying Books
参加出版社:+81/GASBOOK/SUPER LABO
Web:https://www.diesel.co.jp/ja/art-gallery/bookmarket
Instagram:@dieselartgallery
Text by kozukario