映画と音楽の話。

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映画と音楽の話。

映画と音楽は、双子のような存在。

映像作品にとって音楽(劇伴)は切っても切り離せない。友人の映画監督は、「映像の半分は音楽で決まる」と豪語する。言うなれば刀と鞘、馬と鞍、マナとカナくらいに、お互いがなくてはならない存在なのに、なぜか映画音楽についての考察や批評って世の中にあまりないのは何故だろう。ということで、今回は筆者が大好きなジャンル「映画音楽」について語ってみたい。

そもそも、映像作品は音楽なしには成り立たないのです。もし音楽がなかったら、ジョーズはただの凶暴な鮫だし、E.T.が差し出す指にどう対応していいかわからないし、エルサはありのままになれなかった・・・もう少しだけよいですか?ここでちょっとしたテストを。名作好きなら、次の音のうち一つ、二つはすぐに思い出せるのではないでしょうか。

  • フーテンの寅さんが、訪ねてくるときの「あの音楽」。
  • ヤクザ同士の抗争の時の仁義なき「あの音楽」。
  • マフィアのボスが決断をした時の「あの音楽」。
  • スパイたちが華麗に暗躍しようとするときの「あの音楽」。

これらの音楽はざっと挙げてみても瞬間的に思い出せるレベルで、強烈に記憶に焼き付いていませんか?ちなみに最後のスパイ音楽については年代によって選択肢が2つほどあるかもしれませんが、あえて作品名は割愛させていただきます。「いやいや、音楽なしの映像作品でも感動する作品はたくさんあるよ」という主張も想定しつつ、あえて今回は、「否」という主張で進めさせていただきます!

映像にマッチした音楽を合わせるとなぜ感動するのか。

映像に合わせて演奏される音には大きく分けて3種類、音声と効果音(SE)、そして音楽だ。アニメでは音声は演技そのものだし、映画やTVでは効果音も多用される。ある効果音や音楽は、人々の笑いをさそったり、驚かせたり、期待値をあげたりする効果が上がることは、すでに様々実証実験によって立証されている。

そもそも、はじめに音ありき。

ベートーべンやバッハは舞台劇のために音楽を書いていた。そもそもバレエやオペラのための曲が、今ではクラッシックとしていつまでも伝わる名曲となっている歴史を知ると、ストーリーを語る演劇舞台では伴奏される音楽が必須であった。もっと遡ると、日本古来の儀式なども神々との通信のデバイスとしての「雅楽」が荘厳な雰囲気作りには欠かせなかった。

映画ができた1920年頃はまだ無声であったので、その場での生演奏が自然と当たり前になったようだ。

名作の影に名作曲家あり。

いつのころからか、筆者は映画を見ると同時に、どんな音楽がどのようなタイミングで挿入されるのかも自然に意識するようになった。そんな筆者が今でも忘れられない映画音楽、とくに監督と作家のタッグという視点でいくつか紹介したい。

映画音楽の王道

スティーブンスピルバーグとジョンウイリアムズ
冒頭で言及したジョーズとE.T.の劇伴はともにこの伝説タッグが手がけている。ジョーズが近づいてくるときの不協和音のようなあの音楽は、まだ小学生だった僕を数日間、風呂から遠ざけさせるほどビビらせたものだ。その後も「スターウォーズ」シリーズ、「インディジョーンズ」シリーズをはじめ、ディス・イズ・サウンドトラックな音楽を数多く産み出した。筆者のイチ推しはなんといっても「ジュラシック・パーク」。主人公のグラント博士達が恐竜と初めて出会う感動のシーンで流れる劇伴は、音の大きさや挿入タイミングなども含めて「観ないで死ぬな」と訴えたい。

現代映画音楽史のルネッサンス

ジュゼッペ・トルナトーレとエンニオ・モリコーネ

映画音楽にルネッサンスがあるとすれば、間違いなくこの二人の出会いだ。なんて洒落たことを言いたくなる、イタリアの巨匠お二人。

残念ながら2020年に亡くなったモリコーネは「映画が恋した音楽家」とか「映画と音楽の最も美しい出会い」とか称されるほど多くの著名な監督達に愛される作曲家だ。代表作「ニュー・シネマ・パラダイス」の哀愁あふれる劇伴は、誰しもが涙したことがあるのでは。しかし、筆者のイチ推しはなんといっても「海の上のピアニスト」。その異質な設定の作品自体も十分に鳥肌なのだが、そのサウンドトラックを時々作業中に聴きながら、感涙で作業が何度止まったことだろう。

音楽にも強いこだわりを見せる日本の巨匠たち

スタジオジブリと久石譲

ジブリ作品と音楽とくれば、久石譲です。今では「ジブリメドレー」や、「ジブリカフェ」と称して動画サイトや音楽サブスクの立派なジャンルになっているほど、ジブリの世界観を共に作り上げたといってよいだろう。「風の谷のナウシカ」のプロデューサー高畑勲により当時ほとんど無名の久石が抜擢され、その後は瞬く間に日本映画音楽界の巨匠に上り詰めた。高畑監督は、久石起用以前にもTVシリーズ「赤毛のアン」のOP曲を現代音楽家の三善晃へ依頼し、音楽批評家を驚かせた知らざれる音楽好きなのだ。

音楽の魅力を余すところなく映画へ練り込む!

ロバート・ゼメキスとアラン・シルベストリ

ハリウッド映画豊作の年、1985年に公開された「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(以下、BTTF)を成功に導いた盟友二人はそのサクセスストーリーも興味深い。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの開業当時のCMソングといえばわかる人もいるだろう。ゼメキス監督作品「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」(1984)で初タッグ。「ロマンシング」がじわじわとヒットし、その1年後にBTTFを大ヒットさせ、一気にハリウッドの王座を勝ち取った。その後、シルベストリは、「フォレストガンプ」「ポーラー・エクスプレス」などのゼメキス作品を音楽で支え続ける。ウイリアムズが正統派の天才なら、シルベストリは異端の秀才であり、そのスケールの大きさは、彼のもう一つの傑作「アベンジャーズ」のテーマ曲に昇華されている。

BTTFが公開された1980年代は、筆者にとって洋楽の沼にどっぷりの時代だ。ミュージック・ビデオを24時間流しっぱなしのチャンネルであるMTVが始まり、マイケル・ジャクソン、デュラン・デュラン、マドンナ、プリンス、ワム!などのミリオンセラーアーティストが日本でも次々と大ヒットしていた。そのMTV全盛期に公開されたのが、BTTFなのである。ヒューイルイス・アンド・ザ・ニュースによる主題歌「POWER OF LOVE」は、劇中でマイケル・J・フォックス演じるミュージシャン志望の少年マーティが学校で演奏し、ヒューイ・ルイス本人に却下されるというシーンにも使われ、洋楽ファンをニヤリとさせた。「タイムトラベル」が主題の本作に50年代~80年代までのいろいろな時代の音楽を余すところなく起用し、時代を超えたドラマが進むにつれその音楽の効果が最大限に発揮され、音楽も主役とも呼べる作品だ。

映画音楽は、脚本の一部。

ここで実際に筆者が音楽によって感情がぐらぐらと揺さぶられた体験について、ここ最近の映画の中から1本だけ紹介しておきたい。ウィルスミス主演「フォーカス」(グレン・フィカーラ&ジョン・レクア 脚本/監督)という作品についてだが、この後、極力ネタばれのないように紹介しますが、これから観る予定のある方は読み飛ばしてもらって結構です。

「フォーカス」は詐欺師の話なのだが、その中盤、主人公たちがフットボールスタジアムで試合を観戦しながら、見知らぬ富豪の紳士とある賭けをするシーン。その賭けのクライマックスで挿入されるローリングストーンズの「悪魔を憐れむ歌」のタイミングに、おもわず叫びそうになったくらい興奮したのを覚えている。あの気だるい旋律がこんなにスピード感のある曲に聞こえるのか!と文字通りイスから飛び上がって悲鳴をあげるほどに驚いた。

以上のように、映画には音楽が必要不可欠で、素敵な音楽との出会い次第では、映画の可能性が飛躍的に上がることだってあると断言できる。

なぜなら、映像のみでは映画としては成立が難しい反面、音楽はそれだけで芸術として成立するのだから。この劇的な効果を使わない手はない。これから映像製作を目指す若い方は映像を極めるだけでなく、たくさんの良質な音楽も吸収して、音への意識を高め、映像と音楽の化学反応を駆使して、もっとたくさんの感動と驚き、笑いや涙を我々に供給してほしい。


<参考文献>

🔗テレビ番組における笑いを演出する効果音および音楽の効果 
🔗映画と音と音楽と―手回し映画の興隆と終焉 [草創期の映画] 
🔗音楽講座シリーズ第2弾の「映画音楽」

🔗三善晃 wikipedia
「スタジオジブリの想像力」三浦雅士(著)
「映画音楽術 マエストロ創作の秘密」エンニオ・モリコーネ (著), ジュゼッペ・トルナトーレ(著), 真壁邦夫 (訳)

<参考音源>
「Back to the Future, the Music」The Soundtrack Show (iHeartPodcast)

<引用>

🔗「海の上のピアニスト」
🔗SCREEN ONLNE

本文:DEBO

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