SUPERORGANISM、時代の閉塞感を突き抜けるパワーと圧倒的な一体感。夢想とリアリティが溶け合う”World Wide Pop Tour”初日の東京公演のライブレポート
SUPERORGANISM @ZEPP DiverCity 1/13(FRI)
時代の閉塞感とそれを突き抜けるパワー、2022年のムードを象徴していたと言っても過言ではない『World Wide Pop』を引っ提げたジャパン・ツアー。初日の東京公演は、最初に2018年のUK/アイルランド・ツアー以来親交を深めているCHAIがサポート・アクトに登場し、「HERO JOURNEY」ではオロノがステージに飛び入りする仲の良さを見せつけ、期待を高める。
客電が落ち、5人のメンバーが登場すると、海の底を漂っているようなゆったりとしたグルーヴとシュールな歌詞の「The Prawn Song」でスタート。アコギを抱えたオロノの「ハロー、ワッツアップ?」という一声のあと「World Wide Pop」、続く「Put Down Your Phone」ではスマホを描いたアニメーションがステージ後方のスクリーンに投影され、コーラスではオーディエンスの手が一斉に挙がる(もちろんスマホなしで)。前半の3曲から一気にスーパーオーガニズムの夢想とリアリティが溶け合う世界にどっぷりと浸かることになる。
「SPRORGNSM」ではアコギを置きサングラスは外したオロノがオーディエンスを指差し「Sing Louder!」「叫べ!」と焚きつけフロアは狂乱状態に。「Night Time」ではダンサブルなプロダクションのうえで、ひとり深夜に物思いに耽るあのざわざわとした感情をヴィヴィッドに伝える。
最新アルバムにデビュー作『Superorganism』の楽曲をミックスしながらのセットリストなのだが、昨年のフジロック出演の後、ヨーロッパ、UK、北米ツアーを経てライブ運びが格段にこなれている。ギターのハリーとオロノのデュエットから始まるバロックなポップ「Crushed.zip」のエモさに続いて、「Black Hole Baby」「Into the Sun」「It’s All Good」が矢継ぎ早に繰り出されるメドレーは、彼らの音楽にある情報過多な快楽を凝縮させた構成にクラクラする。オーディエンスのレスポンスにオロノも「グッジョブ!」と満足げだ。
破壊的なギターのノイズを強めた「Nobody Cares」でも〈誰も気にしない〉というコーラスをオーディエンスと共有し、自由を得るためのシンプルだけど実存的な問いを再確認させる。「ロックンロール!」とハリーが煽り、疾走感あふれる「Flying」、そして「Relax」が終わるとオロノが「10年前にここで出会った」友人をステージ袖から招き、おもむろに話し始める。「ヴァンパイア・ウィークエンドがヘッドラインだったイベント『Hostess Club Weekender』(2013年2月)で、俺は君がいたところにいた」と最前列の観客を指差す。ハリーが「セット中ずっと泣いてたんだろ?」と挟むと、オロノは「そう、とても感動した。初めて自分で行きたいと思ったコンサートだったんだ」と感慨深げだ。そうして音楽が人間関係を繋いでいくことの大切さを驚くほど率直に伝えたあと、ネットを介して自分の孤独を克服することを歌うバラード「Reflections On The Screen」が余計に胸に迫る。
そして「Don’t Let the Colony Collapse」ではバリケードの手前にファッションショーのモデルのごとくキャットウォークができるスペースが設けられ、観客がひとりひとり歩いていく。フジロックでホワイトステージに多数の観客を上げてのパフォーマンスをはじめ、オーディエンスの君たちが主役なんだということを常に表明してきたスーパーオーガニズムらしい演出で、世界の不安を吹き飛ばすエネルギーが放出される。ネガティブな側面を見据えたうえで、フラストレーションを開放してくれる『World Wide Pop』というアルバムを代表するポップネスで、クライマックスで観客が一斉にジャンプすると、「イエス!」とオロノが達成感を口にし、「すごい!」とメンバーも感嘆する。
「Oh Come On」が終わったあたりで、オロノは「いままででもっとも長いセットかも」と漏らしていたけれど、「Let’s Go Crazy!」というシャウトのあとの「Everything Falls Apart」が、そろそろ物語のエンディングが近づいていること暗に伝える。「Everybody Wants To Be Famous」では当然のごとくオーディエンスの大合唱が起こり、「Make Some Noise!」の掛け声とともに圧倒的な一体感が会場を包む。前半のレゲエ/ダブ的なプロダクションが永遠に繰り返される日常を投影する「On & On」。「最後の曲だ、でももしみんながクレイジーになってくれたら戻ってくる」とオロノが呼びかけ、キラキラと輝くプロダクションを持つ「Solar System」。この後半の怒涛の展開はまるで映画を観ているようで、様々なイメージをカットアップ的にコラージュし複雑な感情を描いていく彼らの持ち味が、ライヴではそれがよりダイレクトに伝わってくる。
鳴り止まぬアンコールの拍手に応え再びステージに登場した5人。「君たちクレイジーだ!」と感謝を伝え、ハーモニカを持参しているオーディエンスに向け「君はボブ・ディランだね、君のために演奏する」と「Teenager」。コーラスのBとソウルがポンポンを持って踊るキッチュで華やかなパフォーマンスが、アルバムのオプティミズムを表現したあと、「ほんとうに最後の曲」としてCHAIの4人が登場し、「Something for Your M.I.N.D.」で大団円を迎えた。オロノにとっては人生を変えたライヴを体験した会場だけあり、今まで観た彼らの演奏のなかでももっともストレートで胸にくるものがあった。不条理とカオスのなか、暗い世界を糾弾しながら、最終的にはスーパーオーガニズムというコミュニティのなかで孤独な魂が結びつくような優しさが感じられた。
オロノが何度も何度も「ありがとう!愛してる!」と呼びかけメンバーがステージを去り、終演後のSEとしてヴァンパイア・ウィークエンドの「Walcot」がフルコーラスで流れる。オロノがこの曲で感じた感動を10年かけて昇華させたように、スーパーオーガニズムのワールド・ワイド・ポップが伝染し、この夜の客席にいた若者が10年後、ステージで自分を表現していることを願わずにはいられない。
Text by 駒井憲嗣
Photo by Kazma Kobayashi