アニメ化決定、『とんがり帽子のアトリエ』レビュー~煌々と燃える、「描くこと」への意志
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先日、白浜鴎著『とんがり帽子のアトリエ』のアニメ化が発表された。
小さな村の少女・ココは、昔から、魔法使いにあこがれを抱いていた。だが、生まれた時から魔法を使えない人は、魔法使いになれないし、魔法をかける瞬間を見てはならない……。そのため、魔法使いになる夢は、諦めていた。だが、ある日、村を訪れた魔法使い・キーフリーが、魔法を使うところを見てしまい——。
これは、少女に訪れた、絶望と希望の物語。
―モーニング 公式サイトより
『とんがり帽子のアトリエ』は、快活な少女・ココが魔法の世界に足を踏み入れ、さまざまな出会いを通して成長する姿を描いたファンタジー作品だ。国内外問わず人気の高い作品とあって、アニメ化が発表されたSNSでは世界中で盛り上がるファンの姿が見受けられた。
本作の魅力は多分にある。おそらく現時点で連載しているファンタジー系の中でも群を抜いた描画力、確かなストーリー構成、魅惑的なキャラクター。そして、新たな観点から”魔法”というものを捉えた斬新さ。
「100万部突破の王道魔法ファンタジー」と帯で謳われているが、これは果たしてただの王道なのだろうかと懐疑する。今まで誰も描いてこなかった、魔法×ファンタジー×才能への苦悩×描くこと、というテーマを、ペン一本で書ききろうとしている実に勇敢かつ精力的な作品なのではないだろうかと、私は思うのだ。
本作では”魔法”は現実から引き離された”非現実”ではなく、特殊な道具を用いて”描くこと”により発動するものとして描いている。また物語の軸として、現行の魔法使いと、とあるXデーを境にそれから過去に存在していた魔法使いたちの衝突を大筋に据えている。対峙する”とんがり帽子”と”つばあり帽”。その対比もさることながら、とんがり帽子の魔法使いたちが使う魔法道具のディテールは緻密を極めている。”魔陣”と呼ばれる、魔法を発動させる陣の作りこまれた仕組み。世界のあちこちで見られる、入り口が隠されていたり、洞窟の中が魔法に満ちていたりといった”パンドラの箱”的な仕掛けやトリックは、ファンタジー好きにとって垂涎ものだ。
ファンタジー作品としての王道を通りながら、それでいてスパイスのように”新しさ”を忘れていない絶妙なバランスも本作の魅力のひとつだ。加えて作者である白浜鴎氏による描き込みのテクニックには毎回、新鮮に驚かされる。アナログの味がふんだんに染みている、強弱のついた線で描かれる物語世界は、読者を世界観の中にとらえて離さない。毎回新刊が出るたびにページを捲ると、その世界観に没入し、現実を忘れられる。こういった漫画に出逢えることはとても喜ばしいことであり、奇遇な幸運でもあると思っている。
“読ませる”漫画というのは紙面からパワーがあふれ出ている。本作は魔法、という最もポピュラーなファンタジー要素を扱っていながら、前述したとおり”描くことの難しさ””才能への葛藤”なども表現している。
白浜氏の”描くこと”に対する苦悩と血の滲むような努力、そして才能への苦悶を、漫画からひしひしと感じる。物語の中で、ある者は家系に縛られ、ある者は自分の独創性を貫き、ある者は鏡に映った弱い自分に怯える。これはおそらく、彼ら”とんがり帽子見習いの弟子”でなくても、何かを描こうとしている者、何かを生み出そうとしている者に共通する側面なのではないだろうか。
何かを創ること、それを学び、知り、夢を追いながらその先を目指すこと。それには必ずといっていいほどに苦悩が伴う。私自身も、創作というものに何度も体当たりしては砕けていく苦悩を身をもって痛感しているので、漫画の中の彼ら……ひいては作者である白浜氏が、創ることにかけてどれだけ苦しんでいる(きた)かを感じ取ることができる。
白浜氏は、”漫画という創作物を苦しみながら描いて””その中で苦しみを描いている”のではないだろうか。それも、誰も想像しえなかったファンタジーというジャンルで。
『とんがり帽子のアトリエ』を読んで、紙の上から、それこそ魔法のような、煌々と金色に燃える”創ることへの意志”を見つけることが出来た。火の粉を散らしながら、いつまでも熱く、消えない炎。私はそれに、手放しに勇気をもらった。作品を読み終えた時の心躍る充足感は、きっとこの炎に焚きつけられて、意欲に火がついた感触も包含しているのだろう。
この漫画には魂が宿っている。キャラクターが生きている。苦しみながら悩みながら、それでも自分を信じて前へ進んでいく。その姿を、一本一本、ペンを走らせながら描いている力強い筆致は、何よりも私の勇気の源になる。
“描く”苦しみを知っている人間は、強い。
作品に登場する若きとんがり帽子の見習いたちの、彼らを見守る魔法使いたちの、そして彼らを生み出した白浜氏の中に宿る金色の炎がはじけ、光をほとばしらせながら燃え続けていくのを、私は読者として見届けながら、同じようにペンを握りたい。
魔法を描くように、文字を創っていきたい。