スペイン巡礼旅「サンティアゴ」は贈り物。進む先にあるドラマが自分自身を超えてきた
世界中から大勢の巡礼者が集まり、各々の道を歩いていく「Camino de Santiago(カミーノ・デ・サンティアゴ)」。今回で4度目の挑戦となるフォトグラファー鈴木大喜がその道中、日記と共に撮り続けた巡礼者たちとの出会いや再会、そして別れ。現地の人々や風景。歩きながら生まれる新たな気づき。
それらにフォーカスした写真集と展示を開催された鈴木大喜さんに当時の様子を交えながらインタビューをおこないました。
ーカミーノとの出逢い
カミーノを初めて歩いたのは、2015年のNY滞在中でした。撮影時のアシスタントをしてはいたものの、フォトグラファーになるのか今後どのように生きていくのか、考えつつ帰国しようかと考えていた頃です。
せっかくなら帰国前に旅をしたいと思い、パウロコエーリョの小説「星の巡礼」で出てきたcaminoに興味を持ち、スペインへ向かいました。初めてだったのもありあまり深く調べずに向かい、最もポピュラーな「フランス人の道」を選びました。2週間以内で歩けるレオンからサンディアゴまで歩いたのですが、初めて見る景色、自然とできた仲間、その人のあたたかさに思わず号泣したのを覚えています。
ー何度目かの巡礼
1度目の巡礼後、必ずちゃんともう一度歩きたいと思い帰国し、お金を貯め2016年に2度目のカミーノを歩きました。この時も「フランス人の道」を1ヶ月で900kmほど歩きました。自分はいままでに4度歩いてますが、2度目のcaminoが最も思い出深く、道中は”楽しい”しかありませんでした。世界で一番しあわせな夏を過ごしたのは自分だと言い切れるぐらいかけがえのない時間を過ごしたと思います。そんな巡礼をした後、「こんなに良い道があって、こんなに素敵なものがあるのならぜひみてほしい」と思い自ら撮影した写真を手に出版社をまわり、1冊目の「camino de santiago」を刊行しました。
同じ年に刊行と並行して展示を行いましたが、来場者から今年は行かないのか?と多く聞かれ、その声に後押しされるように2017年に3度目のカミーノを歩きました。せっかくなら歩いたことない道をと思い、北の道からスタートし途中から「フランス人の道」に合流する形で歩きました。この年は以前カミーノで出会った友人の家に泊まらせてもらったり、”再び出会う”ということを多く経験しました。
しかし2020年に入りコロナウイルスによって世界的に事態が急変し自身の体調も変化しました。もう歩けないかもと思う瞬間もありましたが逃げずに受け入れ、やはりもう一度歩きたいと強く思い、昨年夏、2023年に4度目のカミーノを歩きました。
フランス人の道をレオンまで歩き、そこから1番山道できついと言われるプリミティボの道を歩きましたが、今回も多くの素晴らしい仲間と出会い、心温まることもたくさんあり、そのおかげで素敵な写真が撮ることができたと思います。
ー巡礼中の1日ってどんな感じ
大まかな1日の流れとして、あさは6時過ぎになると周りの巡礼者たちの準備する音で目が覚め、起床します。そのまま準備をして出発し7.8キロくらい歩いてバルにて朝食を食べます。私はいつもスペイン風オムレツのトルティージャを食べていました。
夏のカミーノは日中の太陽がきつく暑くなると歩けなくなるため、みんな朝の早い時間に歩き始め距離を稼ぎます。そして休憩を挟みながらひたすら歩きます。
ひとそれぞれ、その日の目的地が異なりますが、おおよそ14〜15時頃に次のアルベルゲに到着します。着いてすぐシャワーと明日のために洗濯をしてその後は好きな時間をそれぞれが過ごす感じです。みんなでご飯を作ったり、呑みに行ったり。スペインの夏は21時過ぎまで明るいので時の流れがゆっくりと感じられます。そして徐々に寝る準備をして22時には就寝という原人間(※2)らしい生活の毎日でした。
(※2 ある意味動物的な、食って寝て歩くというシンプルなサイクルでの生活の意)
ー巡礼を振り返って
巡礼は”歩く”というシンプルなことですが、多くの人と出会い時間を重ねていく中でそのひとの人間性がより強く滲み出てくると思います。そこではお金の有無や自国での知名度などは関係なく、「今ここにいるあなたは誰なのか」を問われ、それだけがそこでは重要です。
今までのあなたではなく、”今そしてこれからのあなた”
それを伝えて話し、お互いを知っていく。それを話す自分も自身のことをより深く知っていく。そんな体験を経て体はもちろんのこと脳内までもしなやかに整っていくような時間だったと思います。
ー今回刊行した写真集「gift from camino」について
今回は「再会」がテーマとなっています。旅で出会った人々や風景、目に写る景色を心に落とし込み、移り変わる感情など全ては「gift」贈り物だと感じています。
歩きながら日記にしていた言葉たちも写真に添えていますので、その時の感情を読み取っていただき写真を見てもらえるとより深く心に響くと思います。
現代のデジタル社会では感じる事が難しい、人間らしら地球らしさを改めて感じられる「gift from camino」はこれからカミーノの旅へ出る方にはぜひ読んでいただきたいですね。
また通常の写真集とは異なり、デザインや製本方法などもこだわった個性ある一冊となっています。部屋のどこかに飾って置いても違和感がないような表紙になっているのでぜひアートとしても楽しんでいただきたいです。
ー今後の展望は?
今のところカミーノに挑戦する予定はありませんが、機会があれば過酷そうな銀の道に挑戦してみたいと思っています。カミーノに行っていなかったら今の自分、フォトグラファーとしての自分はいないのでまた機会があればぜひ歩きたいと思います。
カミーノを経てもっとスペイン語を話せるようになりたいと思いますし、スペインに住んでみたいなとも考えています。自らの本能に惹かれるまま、人間らしく生きていきたいです。
ー挑戦したい方に向けて
装備としてはオスプレーリュックが個人的には使いやすく、更に小さめのボディバックを持っていくと街歩きする際に便利です。
シーズン的には私は夏しかいった事がないので、夏がいいですね!笑 荷物も少なく、冬より身軽に歩けますしシャワーなどで寒さを感じることもなく、とにかく楽でいいです!
夜も21時過ぎまで明るいですし。暑さ対策として塩を持って食べてました。またかなりの距離を歩くので途中足にまめができたり血豆になりやすいです。安全ピンと消毒液は必須ですよ。手ぬぐいなどもあると重宝します。
あとは今回刊行した「gift from camino」をぜひ読んでからカミーノへ挑戦してください笑
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※写真集はBLAZEVYを運営するRichard AP Inc.が制作、出版をおこないました
<鈴木大喜 プロフィール>
埼玉県長瀞町生まれ。大学卒業後、バンタンデザイン研究所にて写真を学ぶ。出版社マガジンハウスのスタジオ勤務後、渡米。帰国後フォトグラファーとして東京を拠点に様々な媒体で活動中。2015年、2016年、2017年、2023年とスペインにある巡礼路「Camino de Santiago」を歩き、その距離は合計約3000キロになる。
Instagram:@daiki1213szk