Sorry、UKらしい不穏で湿った質感もありながらも鋭くオーディエンスの耳を打ち抜くサウンドは、現在のUKのシーンで一目置かれてきた存在であることを示していた
東京 10月10日(火) 渋谷 WWW X
猛烈な暑さは幻だったのかと思ってしまうほど急に冷え込んだ10月10日。北ロンドン出身のバンド、Sorryが渋谷WWW Xで来日公演を行った。幼少期からの友人であるアーシャ・ローレンツとルイス・オブライエンを中心に、同級生たちで2016~2017年に結成された現在5人編成のバンドである。2020年のデビューアルバム『925』がメディアやリスナーから
激賞され、この時期に同時多発的に出現した数々のUK新人バンド群の中でも、とりわけローファイなサウンドで独自のポジションを獲得したように思われる。昨年から今年にかけて、失われたパンデミック期間を取り戻すかのようにポスト・パンク・リヴァイヴァルの流れに位置するUKのバンドが来日し続けている。例えば今年2月のFontaines D.C.、4月のBlack Country, New Road、昨年11月の単独と今年7月フジロックでのblack midiなどである。それに、来月11月にはSquidの2年ぶり2度目の来日公演が予定されている。そんな中、意外にもSorryの来日公演は今回が初である。この日を待ち望んだファンも多くいるに違いない。
開演時間を少し過ぎた頃、英国のバンドらしいクールなスーツ姿で登場したSorryは、「As the Sun Sets」、「Key to the City」、「Snakes」、「Willow Tree」といった並びで早速1stアルバム『925』と最新作の2ndアルバム『Anywhere but Here』の曲を交互に披露。柔らかく不穏なギターリフと粘っこいベースとドラムにアーシャの気怠い声が加わる。照明のみの最小限のセットにもかかわらず、観客を一気にSorryの世界に引き込んでしまうような迫力があった。
アーシャ自身も手掛けるどこか奇抜なミュージックビデオを見ればわかる通り、Sorryは自分たち独自の世界を徹底的にこだわって演出するバンドである。そのこだわりがライブのシアトリカルな雰囲気にも繋がっているのだろう。そしてライブにおいてその演出に深く寄与しているのが、GG Skips名義でも活動するキーボードのマルコ・ピニである。彼が各楽曲を奇妙な電子音やモノローグのようなもので繋ぎ合わせることによって、オーディエンスは曲間で途切れることなくSorryの世界観に浸り続けることができるのだ。
この日のハイライトのひとつは2021年のEP『Twixtustwain』収録のライブでの定番曲「Cigarette Packet」だろう。ファンからも人気の高いナンバーだ。今年の大ヒット映画『バービー』で人間界にやってきたバービー役のマーゴット・ロビーが身に着けていたような銀色に光り輝くカウボーイハットを被ったアーシャが、高速のダンストラックで吠えるように歌う。
ここからはしばらく2ndからの楽曲が連続する。「I Miss the Fool」も基本的には低速でギターが同じフレーズをループする構成の曲だが、一気に景色が変わるような後半のブリッジでの展開が凄まじい。各楽器が音を合わせる瞬間のバンドの一体感が生み出す快楽はライブでこそ味わえる特別な瞬間だと思わされた。続く「Tell Me」も音源よりも遥かに力強いサウンドで驚かされる。そして2ndアルバムの中でも際立って叙情的な「There’s so Many People That Want to Be Loved」では、楽しげながらもどこか切ないポップセンスが輝いており、表現の引き出しの多さを見せた「Baltimore」や「Let The Lights On」といったパンキッシュな鋭さを湛えた曲で助走を付け、最後は1stアルバムからの人気曲「Perfect」と「Starstruck」を鍛え抜かれた筋骨隆々のサウンドで叩きつけてフィニッシュ。
かと思いきやキーボードのマルコだけはステージに残り、金属が擦れるような電子音を流し続ける。一度退場したメンバーが戻ってくると、そのまま1stの冒頭を飾る「Right Round the Clock」を披露。ルイスとアーシャの掛け合いもバッチリだ。未リリースの新曲「Jive」はメロディアスな入りから感情を爆発させていくような路線の楽曲。空間系のエフェクトが多用されており、いずれ放たれるであろう次回作への期待を膨らませるのに充分な一曲。最後は最初期のシングルで、1stアルバムで再録された「Lies」で豪快ながらも最初の不穏なムードを保ちつつ幕を閉じた。
MCでは「来てくれてありがとう」以外の発言はほとんどなかったが、その分音源よりもハードで骨太な演奏が彼らの実力を雄弁に語っていたように思う。UKらしい不穏で湿った質感もありながらも鋭くオーディエンスの耳を打ち抜くサウンドは、確かに彼らが魑魅魍魎の跋扈する現在のUKのシーンで一目置かれてきた存在であることを示していた。
Text by もこみ
Photo by Daiki Miura