「ロケ地を訪ねて」(熱海・真鶴編)映画は、人との交流が礎になるのかもしれない
前回の「ロケ地を訪ねて」からあっという間に1年が過ぎました。
今回は永岡俊幸監督作品『つめたいあかり』のロケ地、熱海・真鶴のお話。
そもそも永岡監督とは、愛知県の「おおぶ映画祭」で出会い、「島根で映画を撮るんです」と2021年に全国で公開された映画『クレマチスの窓辺』で古墳を研究する学者・向井慎一役でオファーをいただいた。
『クレマチスの窓辺』に続き熱海・真鶴で撮影の『つめたいあかり』も永岡監督からオファーをいただきました。島根のロケ地話は今回は割愛して、『つめたいあかり』の熱海・真鶴のお話です。
都内で撮影をしてから、出番は翌日になったので、そのまま僕は単身で先に熱海入りした。なかなか行く機会がないし、せっかくだから少し観光もしたかった。
熱海へは時間に余裕もあって安くすませるために新幹線じゃなく、東海道本線で向かった。
真鶴にも近く、金沢にいるときに偶然出会ったホテルみるぞーさんという人に教えてもらった「真鶴出版」というところに泊まりたかったが、予約が取れず、「ロマンス座カド」が空いていたのでチェックイン。
この「ロマンス座カド」が当たりだった。お客は僕だけの貸切状態。隣には熱海最後の映画館だったという「ロマンス座」があり、徒歩で熱海の温泉街へと繰り出せる。
「クレマチスの窓辺」やおおぶ映画祭の辻卓馬プロデューサーもなぜか熱海に撮影を見に来るということで合流することになり、それまでに温泉はどこに行こうか迷ったが、「インフィニティ」と呼ばれる空と海の地平の絶景を楽しめる露天立ち湯があるという「Fuua」に行った。
オシャレなカップルや女子会的なお客さまが多い中、広い館内を孤独なおじさんがひとり…。そんなことはお構いなく、目当ての絶景=インフィニティ風呂を体験した。
その後、辻さんと合流して、地元の人たちが行くような居酒屋でごはんを食べて、もう一軒。
ウイスキーなどを知らない自分に、辻さんはこの機会ですからと、一杯3,000円くらいするお酒(写真参照)を飲ませてくれた。
いいお酒を飲んだからか、ウイスキーが好きになった。
よくこういった映画の撮影のときは、予算との兼ね合いもあり、前後のスケジュールに余裕がないのだけど、このときは余裕のあるスケジュールを組んでいただけた。こうした現場の組み方には感謝しています。
それから年月が過ぎて、僕は長濱蒸留所で樽から直接ウイスキーを詰めることができる「AMAHAGAN」を遅ればせながら辻さんにプレゼントすることができた。
熱海のロケ地は旧テーテンス熱海別邸(稲村ハウス)主屋。
僕は知らなかったけど、登録有形文化財にもなっている前川國男建築という貴重な建物だ。熱海シネマさんからの差し入れもうれしかった。こうして地元で映画に関わる方々とご一緒できるのはうれしい。
目の前は開放的な海。永岡さんの作品は『クレマチスの窓辺』のときもそうでしたが、俳優もスタッフもその景色を楽しめる場所が多い。後から紹介する真鶴も以前『Birds』という短編で撮影している。
撮影は順調に進み、撮影スタッフの田中銀蔵さんや岡田翔さん、細野牧郎さんなどなど、たくさんの方々と撮影プランを練る永岡さんとの掛け合いを見るのも楽しい時間でした。
この建物は僕が演じる向井の研究室という設定。
(役名が向井というところに、あ!と思った方はナイス!)
スチールは染谷かおりさん。主演の廣瀬菜都美さんをはじめ、たくさんの素晴らしい瞬間と景色を撮ってくださった。現場にいたネコがとても元気すぎて楽しかったです。
熱海から移動し、真鶴の漁港に。
海面に反射する陽の光がキラキラしてきれいだった。
撮影の終わりはいつも寂しいもので、クランクアップを迎えた場所には、果たしてまた戻ってこれるかなと思ったりする。
そして、2021年7月、熱海は豪雨によって土石流災害に遭ってしまう。災害のときはやはり現地にはなかなか行けない、ただ少しでも早い復旧を願うしかない。
日本全国、様々に行った。ただ、撮影などで行った場所にはやはり愛着はあって。
少しずつ復旧が進み、2021年11月熱海で【ネオ熱海ムービー祭】が開催され、永岡監督と廣瀬菜都美さんが再び熱海へ。僕は行けなかったけど、『つめたいあかり』がこうして熱海で上映されること、本当によかった。
映画はつくり手の気持ちだけでは成立しない。人との交流、その積み重ねがよりよい作品をつくる礎になっていくのではないかと信じている。
作品にたくさん関わりたいと思いながらも、ぼけーっとする時間も好きなので、僕自身は撮影がない時、終わった後、やっぱりリフレッシュしたくて旅に出てしまう。
あのネコは元気にしてるかな?
また、ロケ地を訪ねてみたいな。
文:星能 豊