幾何学模様、世界各地を回ってきた長いツアーのはて、ラストライブ直前のライヴレポート
幾何学模様 @ EBISU GARDEN HALL 11月28日 (月)
無期限の活動休止が決定している幾何学模様。このあと12月3日にラスト・ライヴがあるが、今回はその直前のライヴである。広い恵比寿ガーデンホールがほぼ満員となる盛況。その人気のほどに驚く。古着っぽいヴィンテージなファッションやヒッピー風の服に身を包んだオシャレ風な人が多く、ふだん見ているロックのライヴとは異なる客層にも見える。
映像なし、照明もいたってシンプルでベーシック、これといった演出も舞台セットもなし。無造作にアンプやドラムセットが置かれただけの殺風景とも思えるステージで5人のメンバーがただ黙々と演奏するだけ。素っ気ないぐらい装飾のないショウなのに、どんどん引き込まれる。
演奏の強弱のダイナミック・レンジが広く、ラウドな音と微弱な音のメリハリの付け方が巧みだ。楽曲も最近のロックにありがちな過度なダイナミズムや必要以上のデフォルメや装飾がなく、素朴で構えがない。音量も飽和するような爆音ではなくむしろ控えめで、音圧で圧倒するようなハッタリがない。ヴォーカルも決して声を張り上げることがなく繊細で、エレガントですらある。ロックのマチズモや居丈高な威嚇や過剰な自己主張は巧みに回避されている。60~70年代っぽい長髪ファッションなのに、そのしなやかさ、優しさは紛れもない2020年代のものだ。
彼らを形容するにあたって「サイケデリック」というキーワードは常套句になりがちだ。私自身もつい安直に使ってしまうが、この日の彼らの演奏はサイケとかドラッギーとか幻惑的というよりも、もう少し地に足の着いたものに映った。ここではないどこかの別世界を現実逃避的に提示するものというより、今生きるこの世界。この現実を踏ん張って肯定するような力強さを感じたのだ。それは演出されたステージ・アクションなど無縁な彼らのスポンテニアスな振るまいでもあり、むしろある種のブルース・ロックに近いような生活に密着した泥臭いサウンドの印象でもある。会場では気軽な声援が飛び交い、客席は息を詰めて演奏を見守るというよりも、リラックスして楽しんでいる。さながら、雰囲気のいいクラブやパブでお気に入りのバンドのプレイを見る感覚に近い。だから彼らの音楽はどこまでもポジティヴであり健やかであり、生命の漲りを感じる。
正直に言えば、私が彼らのライヴを見たのは今回が初めてだ。初めて見る目新しさはあったろうが、そんな私から見ても、現在の彼らはバンドとして極めて充実した状態にあることがよくわかった。こんなにエネルギーに満ちあふれたバンドをなぜ止めてしまうのか私にはわからない。彼らによれば、「いい状態」だからこそ今止めたほうがいいという理由のようだ。先ほど、彼らの音楽はここではない別世界を描くものではないと書いたが、この最高のバンドをいつまでも最高の状態のまま凍結するために今止めるという判断なのであれば、やはり彼らの音楽はある種の想像上の理想郷を描いているものであり、ライヴはその理想郷を中心にゆるやかに結合したコミューンを表していたのかもしれない。
世界各地を回ってきた長いツアーのはて、最後の舞台として祖国のステージに立てた感謝を彼らは述べていた。満員の客の暖かい拍手や声援を受け、彼らの演奏には一層の熱がこもり、白熱したインタープレイを繰り広げていた。終わったあとも余韻はいつでも止むことがなかった。
何年先かわからないが、必ず彼らは帰ってくる。私はそう確信している。こんな最高のライヴ・バンドに巡り会った途端にお別れとは、そりゃないぜ。
Text by 小野島大
Photo by Kazma Kobayashi
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