ポルノグラフィティへの賛辞にかえて〜 文学的な音楽を創り出すアーティスト

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ポルノグラフィティへの賛辞にかえて〜 文学的な音楽を創り出すアーティスト

50thシングルの発表後、約2年2か月ぶりの新曲『テーマソング』を9月22日にリリースするポルノグラフィティ。ベテランとして名を馳せる彼らが生み出す音楽の素晴らしさは書ききれないほどにあるが、なかでも筆者が強く感じた部分について綴っていきたい。

時代が進んでいっても変わらぬ魅力をもち、固定概念にとらわれず新鮮なまま聴くことができるーー昔から長く続いているアーティストの音楽というのは、何年経とうとこの法則が崩れない。はじめて『アポロ』や『アゲハ蝶』、『ヒトリノ夜』を聴いた時の感動を、きっと往年のファンなら今でもつい最近聴いたように思い出すことが出来るだろうし、それは歴が浅いファンも同じことと思う。

3分弱の曲の中に、確かに色濃く、世界が創りだされている。そこではアポロ11号が月に行くようなテクノロジーの発展をアイロニックに語る男や、海の貝になりたがっている感傷的な女性、荒野をゆく旅人がそれぞれの価値観とまなざしを呈して生きている。彼女(彼)らの胸のうちは、限りなく現代を生きる私達に通ずるものがあると同時に文学的な余韻を含んでいる。私達はそんな音楽に惹かれ、物語の主人公たちへのあこがれを抱かざるをえない。

筆者が好きなポルノグラフィティの曲に、2002年にリリースされた8thシングル『幸せについて本気出して考えてみた』がある。この曲をカテゴライズするなら「泣ける曲」「元気が出る曲」「応援ソング」「共感できる曲」ーー凡そそんな感じだろう。

しかし、それだけではない。この曲の真骨頂は1人称視点の歌詞にある。まるで1編の小説のようにドラマチックで、ひとつの物語として確立しているのだ。

曲の歌詞は、ひとりの男の「偉大な夢を抱いていた時間」からふと我に返り、「そのあたりに転がっている些細な幸せ」に気づくまでの過程を描いている。キャッチーなメロディに乗せられた歌詞を聴くにつれ、まるで今までの彼の人生を早送りで見ている、そんな気持ちになるのだ。

会社の屋上の隅っこで、1人で作った弁当を食べている寂しげな後ろ姿、満員電車で押しつぶされそうになっている頼りない姿、1人暮らしの家に帰ってきて、誰もいない部屋に「ただいま」とぽつり、つぶやく姿。そんな姿をも、この歌詞を眺めていると容易に思い浮かべることができる。

まさに「想像させられる創造物」だ。リアリティを追求し、いちど聴いたら忘れられないメロディーラインで綴られた楽曲として、称賛すべきクリエイトにほかならない。

恋愛、ないし悲恋を歌っている彼らの曲で同じことを言うなら、一発録りのパフォーマンスを配信するyoutubeのチャンネル「THE FIRST TAKE」でも披露され話題となった『サウダージ』だろう。

こちらも恋に憂う感情を胸に迫るほどの文学的な歌詞で表現している、ポルノグラフィティというアーティストの特異性を体現してみせた名曲である。

「寂しい…大丈夫…寂しい…」

いちど「大丈夫」と言ってみせ、最後にもう一度「寂しい」と反復する歌詞は実に秀逸で、強がっていても本当の弱さを垣間見せてしまう心の移ろいを見事に表現している。

”恋”という普遍的なテーマから独創的かつ印象深い言葉を紡ぎ出し、感情の乗った唯一無二の歌声で歌うーーポルノグラフィティの真骨頂ともいえる魅力を『サウダージ』にも感じると、「THE FIRST TAKE」を見て改めて思い至った。

そうした曲が1つや2つだけでなく、まるで書店で本を選ぶ時に悩んでしまうほど目白押しなのも、彼らが多くのファンに長年愛され続ける理由となっている。

ポルノグラフィティはアーティスト、ミュージシャンであると同時に、文学的な音楽を生み出す作家でもある稀有な存在だ。”新始動”を発表した彼らが紡ぐ物語に、これからも耳を傾けていきたい。

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Ando Enu

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