火を灯し、耳をすませば夏の音。”音を楽しむ”hinoneの花火
- INTERVIEW
「都会の夜は明るい」
上京して、ひとりで過ごす初めての夜。陽が落ちてもなお、薄ぼんやりと明るい東京の空に、驚かされた人も多いかもしれません。ちかちかと輝く看板やビルの明かりが街全体を照らし、都会に夜の訪れを知らせます。
2020年、都会の夜に大きな変化がありました。
新型コロナウイルスが猛威をふるい、日本全国に外出自粛が呼びかけられました。街から人が減ると同時に、明かりも減ってゆきます。都会に暮らす人々は、「明かりのない夜の暗さ」を身をもって知ることとなりました。
4度目の緊急事態宣言下で迎えた今年の夏。暗くて静かな夜だからこそ楽しめる、手持ち花火の美しさに酔いしれてみませんか?
今回は“音”を楽しむ手持ち花火「hinone」を手がける、東昌貴さん(hinone代表)に日本の花火の魅力をお聞きしました。
ーhinoneの特徴を教えてください。
hinoneでは厳選した日本の手持ち花火をセットで販売しています。
私たちが扱っている日本の花火には、いくつかの特徴があります。ひとつは“音”です。
点火して耳をすますと、“パチパチ” “ジューッ”と火薬が爆ぜる音がする。初めて日本の花火で遊んだ際、音の違いに驚かされました。重厚感があって、心地よい音色なんです。ホームセンターに売っている海外製品とは、全くと言っていいほど違う。
商品名の“hinone”(=火の音)も、そのときの体験からきています。みなさんにもこの感動を味わってほしいと思い、“hinone”と名付けました。
日本の花火は、海外製品と比べて燃焼時間が長いのも特徴です。海外製品はだいたい5-6秒で火が消えてしまいますが、日本の花火はそれよりもずっと長い。中には約60秒間、燃え続けるものもあります。
音を楽しむには燃焼時間も重要です。数秒で火が消えてしまっては、耳を傾ける前に終わってしまいますから。
hinoneの花火は、心地よい音に加えて、火花が散る様子や火薬の香りなど、様々な角度から愛でられる。まさしく“大人が楽しめる花火”です。
ーhinoneの花火は、どれも繊細な火花がとても美しいですね。
hinoneの花火は、火花の美しさにこだわって作られました。1本1本、火花のかたちや音に特徴があります。
繊細な火花が雨のように降り注ぐものから、色とりどりの火の玉が吹き出すもの、トロピカルカラーが目を引くものなど、全く異なる表情を見せてくれる。それぞれの個性も見どころのひとつですね。
ー手持ち花火には、多くの種類があると思います。hinoneの花火はどのように選んだんですか?
相当な数の手持ち花火を片っ端から試しました(笑) 日本の花火は約50種類以上、海外製品も合わせると約100種類はやりましたね。その中から火花が美しく、心地よい音の12種類をピックアップしました。
採用しなかったものの中には、hinoneの花火よりもずっと派手で、特徴的で、パンチがあるものもあったんです。でもそれは「hinoneじゃなくてもいいかな」と思って。やっぱり私たちは、火花の美しさと音にこだわりたかったんです。
別に最初から日本の花火に限定していたわけじゃないんですよ。上質な花火を追い求めた結果、日本の花火ばかりになりました。
選りすぐりの花火を存分に楽しめるよう、付属のリーフレットには「おすすめの遊び順」を記載しています。
ー「おすすめの遊び順」も拝見しました。“点火する順番”や“2本一緒に点火がおすすめ”など、ここまで細かなガイドラインがある手持ち花火は見たことがありません。
シチュエーションにもよりますが、みんなで手持ち花火をするときって、「一斉に点火→火が消えたら次の花火→無くなったら“はい、おしまい”」だと思うんです。
もちろんそれも楽しい花火の遊び方です。みんなで盛り上がった夏の思い出になりますし。
しかし、hinoneの花火は五感を研ぎ澄まして、じっくりと向き合ってこそ魅力が倍増するものばかりです。だからこそ家族や恋人、少人数で「美しい火花」と「会話」をゆっくり楽しんでいただきたいんです。
静かな夏の夜に、ゆっくりと流れる時間のなかで、日本の花火を存分に味わう。そのためには、花火の特徴や遊び順を記した“ガイドライン”が必要だと考えました。
「おすすめの遊び順」を作るにあたり、12種類すべての花火を録画し、それぞれの燃焼時間や特徴をチェックしました。何度も見返すうちに「やっぱり線香花火って綺麗だなあ」なんて思ったりしましたね(笑)
ー線香花火は東西で違いがあるんですね!初めて知りました!
なかなか知る機会もありませんよね(笑)
同じ線香花火でも関東地方と関西地方によって個性があります。その違いを皆さんにも味わっていただきたいと思い、両方の線香花火をhinoneの花火セットに加えました。
ーhinoneの花火は、火をつけるのが惜しいくらいかわいらしいデザインですね。
日本の花火は、夏の風物詩として根強い人気があります。その一方で、魅力をしっかりとアピールできていないとも感じていました。
hinoneを作るにあたり、「みなさんが日本の花火に興味を持ち、素晴らしさに触れるきっかけになったらいいな」という思いもありました。そのため昔ながらの日本の花火の特性はそのままに、現代にマッチするデザインに仕上げています。
そもそも“花火をする”って、誰にとってもわくわくすることだと思うんです。hinoneを購入されるお客様には、花火をしている最中だけでなく、火を付けるまでの時間もわくわくしながら過ごしてほしい。遊ぶ直前までお部屋に飾り、点火する瞬間を心待ちにしてくれたらうれしいですね。
ーhinone完成までの経緯を教えてください。
hinoneはコロナ禍で誕生したプロダクトです。
2020年5月、新型コロナウイルスの感染拡大により、外出自粛や休業要請が呼びかけられ、日常には“我慢”が付きものとなりました。感染リスク低減はとても大切ですが、長期間ただひたすらに我慢し続けるのは難しい。コロナ禍の日常を健やかに過ごすためには、各々がなんらかの楽しみを見つけ、人生に喜びを感じられるひとときが必要だと感じていました。
そう考えていたある日、仕事で付き合いのある卸問屋さんを訪ねたんです。その卸問屋さんは、玩具や駄菓子、日本の花火を豊富に取り揃えていました。
「これだ!」と思いましたね。
そもそも手持ち花火は、“屋外”で楽しむものです。誰かと一緒でも、相手に火花がかからないよう“一定の距離”を保つ必要がある。それに加え、日本の花火特有の心地よい音を堪能するには、“少人数”で静かに遊ぶのが最適です。
日本の花火であれば、コロナ禍であっても楽しい時間をあきらめなくて済みます。急いで商品化を進めました。
ー静かな夜に、少人数でじっくりと日本の花火を楽しむ。hinoneはまさにいまの時代に合った製品ですね。
コロナ禍を通して「世の中が少し落ち着いたな」と感じた人も多いと思います。新しいものが続々登場し、流行り、また次の新しいものが登場する。これまではそれが世の中の主流でした。しかし今は違います。
人やものの動きが落ち着き、日常にゆっくりとした時間が流れるようになりました。長いステイホーム期間は、“これまで身近にあったものの価値”を見つめ直す機会にもなったのではないでしょうか。
こんな今だからこそ、日本の花火の魅力に気付いてくれる人が多いと思っています。
ーどのような方々が購入されているんですか?
幅広い層の方々にご購入いただいていますね。お子さまと一緒に遊ばれたお客様から「子どもたちが大興奮でした!」という感想も寄せられました。
昨年は帰省を控える動きがあったので、遠方に住むご家族やご友人への贈り物にされる方もたくさんいらっしゃいましたね。中には、離れて暮らすお孫さんに“ステイホーム中の楽しみ”としてhinoneを贈ってくださった、おじいちゃん、おばあちゃんもいたのかもしれません。
緊急事態事態宣言下で迎えた今年の夏は、日本の花火を楽しむ絶好のチャンスです。明かりが少ない静かな夜、hinoneに火を灯してほしいですね。様々なイベントが中止になったからといって、夏を楽しめないわけじゃありません。hinoneですてきな夏の思い出を作ってくれたらうれしいです。
ーhinoneの今後の展望を教えてください。
知ってますか?実は花火って、空気が澄んだ冬が一番きれいに見えるんですよ。星と同じですね。いつか冬に楽しめるhinoneの花火も作りたい。寒い夜を暖かく照らす、新たな冬の風物詩になるかもしれません。
(了)
取材・文/佐藤優奈
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