平手友梨奈が新曲『かけがえのない世界』で見せた、「誰か」と生きていきたいと望む姿

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平手友梨奈が新曲『かけがえのない世界』で見せた、「誰か」と生きていきたいと望む姿

7月14日にフジテレビ系列で放送された「FNS歌謡祭」にて、平手友梨奈が1stシングル『ダンスの理由』に次ぐ新曲『かけがえのない世界』をパフォーマンスした。

マニッシュでかっちりとしたスーツにワンポイントの赤い靴下を身にまとった平手が披露したのは、ミュージカル調のダンスナンバー。先日誕生日を迎え20歳になった彼女が歌うのは、”大切な人”とのままならない関係を歌ったラブソングだ。

欅坂46時代を経てグループを卒業し、今や女優業も精力的にこなし大人としての風格を帯びた彼女のパフォーマンスを見て感じ取ったことがある。それは、ずっと孤高に戦い続けた、切っ先の鋭いアーティストであった彼女が、”初めて「誰か」との関係を歌った”ことだ。

前作『ダンスの理由』は息の上がる激しいダンスパフォーマンスとともに、己の士気を高めるかのように鼓舞する力強い歌詞と、平手が常に具現化し続けてきた”表現すること”に対する飽くなき精神、華奢な身体に宿る青い炎の存在を感じるアグレッシブなナンバーだった。しかし今回は「愛し合う」「大切な人」という歌詞が表す通り、幾度となく表現の限界に挑戦してきた彼女が初めて歌うラブソングになっている。

パフォーマンスでは、ダンサーの手を取り踊る平手の姿があった。このことが、彼女を見守ってきたファンにとってどれだけ大きな意味を持つことだろうか。欅坂46というグループの中で、デビュー当時からセンターを務めていた平手。その類まれなる才と突出した存在感は、彼女を孤独にさせた。いうなれば、”仲間”としてともに歌い、踊る存在はいても、自分と”同じ場所”に立つ存在はいなかった。今回のパフォーマンスで、ファンは彼女が粛々と歩んできた孤独の道を思い出し、そこから明るみに出て誰かの手を取って楽しそうに踊る彼女を見ることになる。

『角を曲がる』でひとり、踊っていた彼女。『ノンフィクション』でひとり、もがいていた彼女――どんな時も、舞台上の平手はひとりだった。しかし今度は、ひとりじゃない。誰かと踊る、ということはつまり、彼女が”誰かと生きていく未来”を手ずから選んだ、ということになる。そのことが奇跡のように明るく、何よりも優しい希望を私たちに見せてくれるのだ。

しかし、平手友梨奈はそこで自分を失ったりしない。彼女の抱く芯は強い。自分は自分、ということを見失わないままでいる。ここに平手友梨奈というひとりのアーティストが歌う「恋」がある。恋というものは、多くが互いに迎合し、譲歩しがちだ。それは相手のことを愛していて、嫌われたくない、別れたくないという思いがあるから。

「Love is…永遠なんかじゃないってこと」

「”かけがえのない世界”そんなもの…存在しない」

「悪くはない 孤独の世界」

ああ、こんなにも平手友梨奈は自分を見失っていない――歌詞を見て、そう私は感じた。たとえ「恋」を経験したとしても、彼女は今までの自分を貫き、誰かに迎合したり譲歩したりする人生は歩まない。その芯の強さにまた一段と魅力を感じざるをえない、平手流「ラブソング」の爆誕だ。

「出しっぱなしの蛇口の水を止めるのを忘れていた」「いちど失ってからようやく気付いた」――彼女の経験する恋は、彼女が毒々しいほどの才気に溢れているゆえに不器用だ。それでも”誰か“を求めて踊る彼女は、いうなれば「私を好きになってくれた人に向けた歌」を表現しているのではないだろうか。

これまでずっと、ただまっすぐ前だけを見据えて自身の感覚を研ぎ澄ましてきた平手。20歳になり、大人になってこうして他者との関係を築くようになった今、自分を支えてきたファンの存在を意識してパフォーマンスをするようになったのではないかと感じる。その証拠に、心から楽しんでいるのが分かる伸び伸びとした動きでダンサーとステップを踏み、顔には笑みを浮かべている。欅時代の彼女にしかないものは確かに存在したが、今の彼女にしかないものもまた確かに存在する。今このタイミングで、ひとりではなく誰かと生きることを不器用ながらにも望む歌をうたうことは、きっと彼女にとってもファンにとっても大きな出来事になったことだろう。

大人の階段を一歩踏み出し、ますます活躍の場を広げていく平手友梨奈。「恋」という、誰かと築く関係について初めてその声で、身体で表現した彼女は、これからどんな人々に出会い、どんな思いを抱き、創造していくのか。いちファンとして、若き才能の行く末が楽しみだ。


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Ando Enu

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