話題のイラストレーター、ユリナ・シモジューの「とらわれない」生きかた
- INTERVIEW
毒のあるユーモアと色彩でイノセンスな感情を表現するイラストレーター「ユリナ・シモジュー」さん。人気モデル、水原希子がホストを務める番組「キコキカク」とのコラボレーションなど、アニメーションの分野でも、活躍の幅を広げています。
先日開催されたシモジューさんの作品もふくむ合同展示会「sensitivity」の会場である古民家ギャラリー「rusu」でお話を伺いました。
ーー「sensitivity」はどのようなコンセプトで開催したのですか?
シモジューさん:コロナがきっかけで起きた社会や感情の変化がテーマです。一緒に展示をやるアーティストたちとコンセプトを決める話し合いをした時、それぞれ関心ごとは違っても、コロナというキーワードが出てきて。この非常事態に起きた感情や生活、社会問題に対する感覚を表すために「sensitivity」というタイトルにしました。
私の作品「ROOM2」は薄暗くなった気持ちにいる中、少しだけ前向きな気持ちになれそうな瞬間を表現しました。
ーー子供の頃から創作活動はしていましたか?
シモジューさん:幼稚園の頃はあまり友達がいなくて……。園長先生の机の下で粘土やおりがみでいろいろつくっていました。小学校では仲間内でオリジナルの少女マンガを描いて見せ合って遊んだり。でも「将来マンガ家になりたい!」とかは全然なかったですね。中高の時の時は創作から一時期離れていました。
ーーイラストレーターになろうと思ったきっかけはなんでしょう?
シモジューさん:まず高校卒業したあと、家族の意向で、島流し的にオハイオ州の大学に入ったんですけど……。
ーー島流しですか!? 詳しく聞かせてください。
シモジューさん:望んでアメリカに行ったわけでもなければ、英語もボロボロ、当時は孤立していて辛かったです。でも、たまたまアートの授業を取ったらすごく面白くて。「私がやりたいことはこれだ!」と気づけました。1度帰国して、バイトをしながら美大進学の準備を始めました。その後、ロンドンにあるミドルセックス大学のイラストコースに再入学できました。
その後ニューヨークでリリー・パデューラさん※1やファンタジスタ歌磨呂さんのもとでインターンを経験した後、帰国しました。
ーーシモジューさんはどんな時に創作意欲が湧きますか?
シモジューさん:不満や解決しないことがあった時、自分なりの解釈を表現したくなりますね。だから、作品のテーマは暗くなりがちかもしれません。でも作品を観た時、暗い面と同時に、明るい面も感じてもらいたいと思っています。作品でよくカラフルな配色を使うのもその影響があります。
ーーモデル水原希子さんの番組「キコキカク」とのコラボレーションは、どのように決まったのですか?
シモジューさん:以前ロンドンに留学していた時に知り合った磯村暖くん※3というアーティストが「キコキカク」の制作に協力していて。そこで私の作品を気に入って推薦してもらえたのがきっかけです。
今までのイラストやアニメーションのお仕事も、友人や知り合い経由で受注することが多かったですね。
ーーシモジューさんの実力ありきだとは思いますが、人とのつながりが思わぬチャンスを運んでくることが多かったんですね。人間関係においてのマイルールはありますか?
シモジューさん:私自身は、そこまで社交的でもないし、協調性があるわけでもないです。でもコネ目当てとかじゃなくて、純粋に気があうとか、作品が好きだとかで人と付き合っていくことを大切にしています。
ーー打算的な人間関係は、結局途中でうまくいかなくなるのかもしれませんね。
シモジューさん:その一方で、考え方が違う人とも意見を押し付けるのではなく、おたがいにとって気持ちいい距離感でハッピーにやっていこうと心がけています。
ーー国内外で影響を受けたアーティスト・作品を教えてください。
シモジューさん:イラストレーターでは宇野亜喜良さんが1番好きです。宇野さんは1960年代から独自のスタイルで活躍している人で。それが世代の違う私にはより新鮮に感じられます。彼の描く女性は三白眼なのが本当にかっこいい。あんな女の子になりたいし、あんな絵が描きたいと思っています。日本のアニメでは高校生の頃「モノノ怪」の画面作りに衝撃を受けて以来、中村健治監督のファンです。
年代に関係なく、海外の作家からインスパイアされることも多いです。ペインティングなら、シュルレアリスム期のアーティストたちやバルテュス、マルレーネ・デュマスからは大きな影響を受けています。
海外のアニメーションでは「ファンタスティック・プラネット」が大好きですね。
ーー創作においてシモジューさんが好きなモチーフはありますか?
シモジューさん:宇宙人、人もどきのような存在に魅かれます。私は「〇〇だから」という押しつけ全般がしんどくて。例えば「日本人だからこうあるべき」とか……。今までの人生で自分の外見や性質は、そこから外れてしまうことが多いと感じていました。いっそ宇宙人だったら、基準に当てはまろうとする必要がなくなるのかな、と憧れのような気持ちで彼らを描いてます。
あと友人に部屋のが舞台になっている作品が多いと指摘されました。
ーー今後シモジューさんは、イラストレーターとしてどうなっていきたいですか?
シモジューさん:私自身も迷っていて、まだはっきりと答えは出ていません。ですが今回の「sensitivity」で、予想よりも多くの方が作品を購入してくれたことが、イラストレーターとしてやっていく自信につながりました。
また、ミドルセックス大学時代の恩師の「ユリナはファインや商業という枠組みにとらわれないで、つくりたいものをつくったほうがいいよ!」という言葉は今でも支えになっています。今後も「イラストレーターだから」に縛られず、アニメーションなどもふくめ、さまざまなことに挑戦していきたいです。
※1リリー・パデューラ
Lily Padula。ニューヨークを拠点にイラストレーション・アニメーション分野で活躍するアーティスト。
YURINA SHIMOJU:イラストレーター、アニメーター、コンセプトアーティスト
instagram @shimojuyurina
2017年に英国ロンドンにあるミドルセックス大学イラストレーションコースを卒業。
作品を通して、ダークに見えたり楽しそうに見えたりする表現が好き。コミック、プリント、アニメーション、デジタルイラストレーションなど様々な表現方法で作品制作を行っている。