外界 (空間・他人) とのシンクロ率をあげる感受性と服装のTPO。限界値に到達するには (Glowing Up)
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目次
- 日本国憲法第13条をベースとしたファッションの在り方
- TPOを考慮した服装と外界、そして自分のシンクロ率
- 「あう」「あわない」を左右する空間把握能力
- Beautiful boy、自分の美しさ、まだ知らないの?
KOHHが、「ストリートとモードを紡ぐ新感覚ハイエンドマガジン」をキャッチコピーとするSWAG HOMMESのVol.10にて表紙を飾った時。
本誌とKOHHがまさに「シンクロしている」と思った。
ストリートで多用されるスラング「SWAG」に着想を得ながら、ミレニアム世代の男性 (HOMMES) にハイエンド (最高級) なファッション・ライフスタイルを提案するSWAG HOMMESの表紙に、東京都北区王子の団地で生まれ育ち、今や世界を股に掛けるラッパーのKOHH。
2019S/Sにスタートしたばかりの新悦ブランド、YUKI HASHIMOTOのCUT OFF RIDERS JACKETに自身がフランス・パリで購入したポップなジャケットを羽織った。そこに20年以上の歴史を持つ由緒正しきブランド、ACNEのTシャツを併せる巧妙さ。
「ACNE着てる今」とはこの瞬間のための言葉じゃないかと思う。
スタイリストを務めた高橋ラムダに賛辞を贈りたいほどの秀逸さだ。
日本国憲法第13条をベースとしたファッションの在り方
日本国憲法第13条は、日本国憲法の第3章にある条文で、個人の尊重 (尊厳) 、幸福追求権及び公共の福祉について規定し、人権保障の基本原則を定めている。
幸福追求権には一般的行為自由説という解釈がある。これは、広く一般的行為の自由を保障しているとする立場であり、今回主題とする「服装」にも憲法の保障が及ぶとする説である。
服装の自由が幸福追求のひとつであるということ、そしてそれ故に個性を発揮するための手段のひとつでもあるという考えが近年広く渡っているように感じる。
ハンディを持った人にも、健常者にも、あらゆる人に着られる (受動態) 服を制作するブランドha-haは、コレクション毎にユニバーサルファッションを提案している。
「アシスモーション」をテーマに掲げた2019A/Wでは、動作を補助する服はもちろんのこと、車いす使用時の利便性を考慮した服、そして着用することで背中や腰にかかる負担を軽減する服を披露。
コルセット着用時でもお洒落に見えることを意識したルックについては、ブルゾンの肩甲骨あたりにジッパーを取り付け、開いた時に魅せるコルセットとのレイヤード感を演出した。
また、服装による個性表現について『新世紀エヴァンゲリオン』(1995) において登場するプラグスーツを例に挙げてみよう。これはEVA (人造人間) を操縦する際にパイロットが身に着けるパイロットスーツである。
自我が無い綾波レイは“真白な”プラグスーツを、人間臭い惣流・アスカ・ラングレーは生理が存在する女性の象徴としての“赤”を基調としたプラグスーツを纏っている。
対照的なふたりのイメージを巧く反映していると言える。
そしてこのプラグスーツは、操縦に必須ではないものの、パイロットとEVAとのシンクロ率を補助する効果を有するというのだ。
TPOを考慮した服装と外界、そして自分のシンクロ率
『新世紀エヴァンゲリオン』(1995) のパイロットスーツがそうであるように、服は、自分と外界 (空間・他人) のシンクロ率を補助する働きがあるのではないかと思う。
例えば、フォーマル指定のドレスコードがあるレストランにカジュアルな服装で行くと、入店を断られてしまうことがある。
格式の高いレストランに格式張らないカジュアルな服装で赴いては、どんな富豪であろうとその空間やルールにシンクロしないため門前払いを食らうのだ。
Time (時間) 、Place (場所) 、Occasion (場合) 。
これらの頭文字をとって「時と場所、場合に応じた方法・態度・服装等の使い分け」を意味する和製英語、「TPO」という概念が存在する。
1950年代よりアメリカン・カルチャーを取り入れ日本にアメリカン・トラディショナル・スタイルを浸透させたアパレルブランド、VAN創始者であり“メンズファッションの神様”と謳われる石津謙介によって発案された概念だ。
TPOを弁えた服装は、それを纏う人間とその外界とのシンクロ率を増幅させる。
「好きな服を着て雑誌に載り」などと言っていた頃から5年の時を経て、更にGlowing Upした姿を見せたKOHHが、衣装と外界 (SWAG HOMMES) 、そしてKOHH自身という3要素の可憐なシンクロを見せた瞬間が、SWAG HOMMESの表紙に収められていると言えるだろう。
SWAG HOMMESという外界に対応するTPO、それを着こなすKOHH、その全てが整合した見事な一枚である。
「あう」「あわない」を左右する空間把握能力
人間が外界とシンクロする服装を心がけることは、日常経験することである。
ではTPOを踏まえた服装を選定するうえで重要なことは何か。
その答えは、“空間把握”である。
景観のイメージ (心理量) と構成要素 (物理量) の関係を定量的に捉えている研究 (船越・積田, 1983, 1986, 1987) がある。
この研究では、東京周辺および京都を中心に代表的な街路空間27地区を心理実験対象地区として採用。その写真を多数の被験者らに見せ、その感想となる街路空間を表現する形容詞句を約1800語抽出、さらにこれを分類 ・整理し、街路空間の心理構造を明らかにした。
不特定多数の人間が、ある特定の景色を見て一般的にどのような印象を抱くのかを検証する。
本研究は1980年代のものであるため、現在私たちが感じる景観イメージと異なるものがほとんどだが、「原宿」に関しては大差ないように存じたため例に挙げる。
本研究において「原宿」は、活気があり・明るい・雰囲気のある・開放的な・豊かな・陽気で・さわやかな・楽しい街並、とされている。
「原宿」に足を運ぶとき、そこを上記のように空間把握することができたなら、活気があり・明るい・雰囲気のある・開放的な・豊かな・陽気で・さわやかな・楽しい服装を選ぶことができ、「原宿」という街とシンクロできるはずだ。
上記では屋外の例として「原宿」という一画を採ったが、実際の屋外というものは、概念をこじつけるなりして何らかの境界を隆起させなくては際限などない。
そして屋外よりも屋内のほうが限定された空間になるため、空間構成要素も少ない。
そのため、その空間に対する服装の「あう」「あわない」は、屋内の方が単純化されたものなるはずだ。屋内における服装の「あう」「あわない」は、屋外以上に顕著な傾向が見られるという。
つまり、屋内では「あう」「あわない」という服装の二面性が、紅白の如くあからさまになる。
屋内の方が、服選びを細分化してくるのだ。
Beautiful boy、自分の美しさ、まだ知らないの?
これは屋内だけの話ではない。対人、コミュニティならそのポラリティはより大きくなっていくのだ。
つまり「あわない」場に着用すると、異様に場違いな印象を受ける可能性がある。
場違いな印象を受けるだけならまだマシだ。
『新世紀エヴァンゲリオン』第拾九話「男の戦い」におけるゼルエル戦で、EVA初号機が綾波レイを拒絶したように、一歩間違えば外界に拒絶される可能性さえある。
服装の自由はもちろん尊重されるべきだが、TPOを考慮すべき外界と接触する状況が想定される場合においては、その社会通説 (慣習) に順応する服を選ぶべきなのかもしれない。
ただ、綺麗な服を着て高級レストランへ行ったとしても、それ相応の美しい佇まいでなければ、無理して格好付けていることはすぐにバレる。
外見云々の前に、まず初め (序) に、外界に「あう」中身 (あなた) に成る努力が出来るなら (Glowing Up) 。
いつかあなたも外界とのシンクロ率400% (限界値) に到達することができるかもしれない。